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家族の被爆 伝えねば 引き継ぐ責任 思い強く

 広島市が11日に原爆資料館(中区)で初めて開いた家族伝承者の説明会には、被爆者を親族に持つ参加者20人が集まった。家族の被爆の歴史を受け継ぎ語る新たな取り組み。「祖父の体験を引き継ぐのは自分の責任」「母がこれまで言えなかったことに向き合いたい」―。参加者はそれぞれの思いを胸に、家族の記憶の継承を目指す。(明知隼二、川上裕、小林可奈)

 「この制度を待ち望んでいた」。元高校教員の細川洋さん(62)=中区=は、父浩史さん(94)の被爆証言の継承に意欲を見せる。浩史さんは長年の証言活動の中で自らの被爆体験に加え、13歳だった妹を失った悲しみを語り続けてきた。

 浩史さんは全国の子どもたちから感想文が届くたび一人一人に返事を送っていたが、今は高齢者施設に暮らし、活動は難しい状況という。洋さんは「私の伝承を父も喜んでくれている。息子だからこそ語れる本人の人柄も含めて伝えていきたい」と話す。

 介護士の尾形健斗さん(31)=東区=は、祖父の松原昭三さん(93)=同=の証言を聞き取って伝えようと考えている。学生だった祖父は原爆投下の翌日、親族を探すため入市した。子どもの頃に1度だけ話を聞いたが、当時はよく理解できなかった。「大人になってあらためて証言の大切さに気付いた。祖父の記憶を受け継ぐことは私にしかできない」と気を引き締めた。

 被爆体験伝承者の1期生として活動する水野隆則さん(64)=安佐北区=は、直接被爆した家族7人のうち、健在である母昭子さん(89)の記憶にあらためて向き合うつもりだ。これまでは指導してくれた被爆者の証言を語り継ぎ、家族の被爆については触れる程度にとどめていた。「母もこれまで、家族だからこそ言えなかったこともあるだろう。この機会にしっかり耳を傾けたい」

 一方、被爆した家族の存命という条件を説明会で知り、応募を諦める人もいた。参加した女性は「自らの被爆体験を伝えたいとの強い思いを持つ親族がいたが、最近亡くなってしまった。証言の内容は残しているので、もっと柔軟な制度ならよかった」と残念がった。

(2022年5月12日朝刊掲載)

家族伝承 説明会始まる 広島市新制度 被爆体験を代弁

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