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家族伝承者 存命要件 応募断念も 対象外れ残念がる声

 広島市が2022年度から始める「家族伝承者」制度。新たな継承の取り組みに54人が手を挙げた一方、説明会に参加しながら応募を諦めた人もいた。「証言を受け継ぐ対象の被爆した家族が存命」との応募要件を満たせなかったためだ。断念した人たちや有識者からは、より柔軟な制度設計を求める声もある。(明知隼二)

 東区の主婦小西博子さん(73)は、被爆した家族5人の記憶を語り継ごうと5月の説明会に参加。祖父は全身やけどで2カ月後に亡くなり、2歳だった兄は被爆20年後、白血病で入退院を繰り返し息を引き取った。家族から繰り返し聞いた直後の惨状、自身も見届けた兄の死や家族の苦悩を伝えたかったが、被爆した家族は既に全員他界し、制度の対象外だと分かった。

 小西さんは17年に手記をまとめており、関連資料も手元に残る。「話は日頃から聞いていた。写真なども交え、家族ならではの語りができると思う」と強調。家族が存命かどうかで区切る方法に「少し対象者の要件が厳し過ぎないか」と残念がった。

 5月に4回あった説明会に家族伝承者希望で参加した74人のうち、実際に応募したのは54人。廿日市市の会社員女性(66)も、被爆した母が既に亡くなっていて応募を諦めた。「社会の役に立てればと思って説明を聞きに行ったんですが」と落胆していた。

 市平和推進課は、被爆者が高齢化する中で「存命の被爆者の体験を一人でも多く掘り起こしたい。時間と人手は限られ、優先順位を付けざるを得ない」と理解を求める。講話内容を、被爆者本人が納得できる中身にする意図もあるという。

 被爆関連資料や手記を研究する元広島女学院大教授の宇吹暁(さとる)さん(75)=呉市=は、「存命」の条件にこだわらず、家族の被爆の歴史を継承する意欲を持つ人を幅広く支援するよう提言する。「原爆資料館などの公的機関が持つ専門知識や資料を生かせば、口伝えの事実の裏付けなどは可能だ。市は市民の学びを後押しし、被爆の歴史に関心や知識を持つ人を地域で育てる観点も持ってほしい」と話している。

(2022年6月2日朝刊掲載)

家族伝承者 研修に54人 広島市新制度 被爆の知識など学ぶ

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