×

ニュース

[2022参院選 現場から] 核政策 被爆国の責任どこへ

「保有国寄り」 厳しい視線

 核兵器禁止条約の第1回締約国会議を控えた6月中旬、広島市中区の原爆ドーム前であった集会。参加者は「日本政府は条約に参加を」などと記した横断幕やパネルを手に集まり、オーストリア・ウィーンでの締約国会議の成功を願った。

政府代表姿なく

 集会の目的の一つが、日本政府に会議へのオブザーバー参加を促すことだった。国会議員との面会活動を続ける「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)の田中美穂共同代表(27)は、岸田文雄首相に会議に参加するよう求めるオンライン署名に取り組んでいると報告。「会議まで諦めずに参加を求めていく」とマイクを手に力強く語った。しかし会議当日、議場に日本政府代表の姿はなかった。

 「核兵器のない世界」の実現をライフワークに掲げる広島1区選出の岸田首相。昨年10月の就任会見でも「被爆地広島の首相として全力を尽くす」と意気込みを見せた。外相時代には、2015年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で演説し、核兵器保有国と非保有国の専門家が核軍縮策を議論する「賢人会議」を提唱するなど精力的な動きを見せていた。

条約には否定的

 一方、核兵器禁止条約の交渉過程には加わらず、17年に国連で採択された際にも外相として「わが国のアプローチとは異なる」と不支持を表明した。首相となった今も「核兵器保有国が一カ国も参加していない」などの理由で、条約に否定的な姿勢を維持している。

 背景には安全保障を米国の「核の傘」に頼る現状がある。今年5月下旬のバイデン米大統領との首脳会談では、米国が核兵器と通常戦力で日本の防衛に関わる「拡大抑止」強化に向け緊密に連携することで一致。「米国との信頼関係」を重視し、NPT体制を軸に「現実的な核軍縮・不拡散に取り組む」立場を示す。

 こうした「保有国寄り」ともとれる姿勢には国際社会から厳しい視線が向けられている。締約国会議でまとめられた「ウィーン宣言」では、名指しこそしなかったが、米国や日本を念頭に「核保有国も『核の傘』の下にいる同盟国も政治的責任があるにもかかわらず核への依存を減らす真剣な取り組みをしていない」との文言が盛り込まれた。「被爆国」として核軍縮をけん引する役割への国際的な期待はしぼみつつある。

 参院選の中でもう一つ注目を集める論点が、日本国内に米国の核兵器を置いて共同運用する「核共有」政策だ。岸田首相は非核三原則を根拠に「政府としては議論しない」と退けたが、前向きな姿勢を示す政党もある。

 「核兵器廃絶か人類破滅か。戦後最大の岐路に立たされている」。広島の被爆者7団体は30日、8月6日に岸田首相に渡す要望書をまとめた。ロシアのウクライナ侵攻や核兵器使用の示唆などの危機を踏まえ、禁止条約批准など廃絶への一歩を踏み出すよう強い文言で迫る内容とした。

 「以前の首相は耳を傾けてくれなかったが、広島選出の岸田首相なら聞いてくれるのではないか」。広島県被団協の箕牧(みまき)智之理事長(80)は、そんな期待を口にした。新型コロナウイルス禍で、被爆者自身は証言活動や国際会議への参加など発信の機会が限られている。だからこそ、政治が核兵器廃絶の願いを受け止めてほしいと願う。(明知隼二)

(2022年7月1日朝刊掲載)

与野党幹部 安保巡り論戦 核共有「議論始めよう」「被爆者を冒瀆」 防衛費「周辺は核武装」「軍拡の悪循環」

年別アーカイブ