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社説・コラム

『この人』 平和記念式典で平和の鐘を突く遺族代表 米田慎志(よねだしんじ)さん

 広島市が8月6日に平和記念公園(中区)で営む平和記念式典で「平和の鐘」を鳴らす。「被爆者をはじめ、戦争で苦しんだ人々が平和を守ってきたからこそ今の穏やかな生活がある。感謝と平和を願う気持ちを込めて鐘を突きたい」。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、役割の重さを感じている。

 父の穫(おさむ)さん(2016年に77歳で死去)は江波町(現中区江波南)の自宅で被爆。爆風で飛び散った窓ガラスが突き刺さって背中にはいくつもの傷があったが、被爆体験はほとんど語らなかった。「思い出すのも苦しそうで深くは聞けなかった。私自身も被爆2世であることを言いにくかった」

 遺族代表の打診を受けた6月上旬に一度は断った。核兵器廃絶のために特に活動をしてきたわけでもない。もっとふさわしい人がいると考えたからだ。断ったその日、それで良かったのかと自問を繰り返す中、テレビで見たウクライナの惨状に怒りが込み上げた。「何の罪もない人が犠牲になっている。何か役に立つのであればやるべきではないのか」。一夜明けて引き受けることを決めた。

 介護事業所の管理者を務める。ある高齢者はウクライナの惨禍を悲しみ、満州(現中国東北部)から引き揚げる際、乳児が無残に殺される場面を語ってくれた。戦争のむごさを知る世代と話をすることであらためて平和の尊さをかみしめている。

 被爆3世の妻(45)と長女(14)と西区で暮らす。オーストリア・ウィーンで6月にあった核兵器禁止条約締約国会議にも刺激を受けた。「現地で核兵器をなくそうと奔走する日本の若者の姿に勇気づけられた。私も負けていられない」(川上裕)

(2022年7月9日朝刊掲載)

広島市 8・6式典の概要発表 最多114ヵ国・EU 出席へ

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