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NPT 再検討会議に向けて <下> 保有国との議論必須

文書合意に全力

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開幕する8月1日まで1週間を切った7月下旬。岸田文雄首相は官邸内の自室で思案を巡らせていた。会議初日、国連本部の壇上で読み上げるスピーチの推敲(すいこう)を重ねていた。被爆地広島を地盤とする政治家として、かねて掲げる「核兵器のない世界」への道筋を「いかに示すかを練っていた」(首相周辺)という。

批判も覚悟の上

 大臣級の出席が通例となっている再検討会議に日本の首相として初めて臨むのは、米中ロ英仏の核保有5大国が参加する重みを痛感するからだ。外相時代、たびたび核軍縮を拒む「核保有国の壁」にぶつかったとする首相。「保有国を動かさないと現実は変わらない」。今月中旬、連立を組む公明党の山口那津男代表と会談した際もこう訴え、保有国を交えた議論の大切さを唱えたという。

 その立場から、6月の核兵器禁止条約の第1回締約国会議への政府参加は見送った。日本と同じく米国の「核の傘」にあるドイツなどがオブザーバー参加する中、地元の被爆者たちからの批判も覚悟の上での判断だった。であればなおさら、今回の会議で核弾頭数削減などの具体的な成果を出せるかどうかが、被爆国トップに問われている。

 ただ、核軍縮を巡る情勢は厳しい。ロシアがウクライナに核の脅しを続け、削減はおろか広島、長崎以来の核使用すら現実味を帯びる。ロシアはNPT加盟国でもあり、「ロシア込みの合意は相当ハードルが高い」というのが外交官の間で共通認識となっている。

 首相が初日の演説で示す「核なき世界」への道筋が各国の共感を呼ぶのかどうか。そのことは、最終文書の合意に向けて鍵を握る各国の実務者交渉にも大きく関わってくる。

及び腰の論調も

 その任を託されたのは、岸田内閣で核軍縮・不拡散問題を担う被爆2世の寺田稔首相補佐官だ。「ロシアやロシアに近い中国がどう出てくるか読めない」と話しながらも、「核弾頭数削減の旗は降ろさない」と強調。米国や英国などと連携し、中国やロシアとの交渉を進めるアプローチを思い描く。

 7年前の前回会議では、中東イランの核問題などを背景に交渉が決裂し、成果文書をまとめられなかった。同じ轍(てつ)を踏めば、NPT体制の存在意義が失われるとの指摘もある。外務省内には「核兵器は絶対に使わないという原則論だけでも合意できれば、不合意よりましだ」(幹部)と及び腰の論調も出ている。

 非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の川崎哲(あきら)国際運営委員は、こうした声に異を唱える。「核兵器廃絶の明確な約束」に合意した2000年、核兵器の非人道性を共有した10年など過去の再検討会議の成果を重んじるべきだとした上で「被爆国として核兵器は絶対悪だと主張し、その廃絶につながる議論を主導してほしい」と訴えている。(樋口浩二、口元惇矢)

(2022年7月29日朝刊掲載)

NPT 再検討会議に向けて <上> 被爆者の声「今こそ」

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