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[考 国葬] 重箱の隅つつかず光に目を 元自民党政調会長 亀井静香氏/数々の失政 国民忘れてない 東京大名誉教授 上野千鶴子氏

 参院選の応援演説中に銃撃、殺害された安倍晋三元首相。歴代最長政権を築いた元宰相の国葬が3週間後に迫った段階でも、国民の間に賛否が渦巻くのはなぜか。いろいろな角度から掘り下げるインタビュー連載「考 国葬」を始める。

元自民党政調会長 亀井静香氏

 7年8カ月の歴代最長政権を築き、日本に大きな貢献をしてきた元総理だ。国を挙げて悼もうというのが、なぜいけないんだ。当たり前のことではないか。

 人の一生というのは誰しも傷がある。みんな、そんなもんでしょ。重箱の隅をつつくより、光の部分に目を向けるべきだ。身の回りで故人を送るに当たって「悪いやつだ」「ひどかった」となじりますか。

 森友・加計学園問題や桜を見る会疑惑を批判する人もいるが、俺が残念だと思うところは違う。尋ねられたから、あえて答えるけど、米国追従の「ポチ外交」から抜け出すべきだった。不平等な日米地位協定を改めてほしかった。  とはいえ、現代保守の総帥だったのは間違いない。北朝鮮による日本人拉致問題の解決に向け、情熱を注いだ。アベノミクスの大胆な金融緩和も評価したい。

 前回、吉田茂元首相の国葬が行われた時(1967年)、俺は政界進出前で、鳥取県警の警務部長を務めていた。世間がどんな雰囲気だったか、記憶にない。ずっと放置してきた国葬令の是非を国会で審議すべきだったという声もあるようだが、そんなことをする必要はないと思う。時の内閣が功績に照らし、責任を持って判断すればいいんだ。

 それなのに岸田文雄首相はどうだ。ムニャムニャ言って、はっきりしない。内閣支持率が急落したのは、国葬を閣議決定したことや税金を投入することだけが原因ではないと思う。外交や経済政策の問題が合わさってのことではないか。

 政治家というのは命を懸けてやる仕事だ。きっと晋三も同じ考えだったのではないか。対面した遺体の顔は穏やかだったけど、ああいう形の最期は本人も残念だったはずだ。俺は頰をなで「晋三、痛かっただろう」と声を掛けたんだ。

 ナイスガイだった。おやじさん(安倍晋太郎元外相)の秘書に就いた頃から40年来の付き合いでね、つい晋三と呼んじゃうけど、私利私欲なく国家のことを考えた立派な政治家だ。「お疲れさまでした」と言ってあげたい。(聞き手は下久保聖司)

かめい・しずか
 36年庄原市生まれ。東京大経済学部卒。警察庁官僚などを経て79年衆院初当選。広島6区を地盤に13回連続当選。自民党政調会長や閣僚を歴任し、05年離党し国民新党を旗揚げ。金融担当相などを務め17年政界引退。

東京大名誉教授 上野千鶴子氏

 不慮の死とはいえ、安倍さんによる数々の失政がチャラになるわけではない。国論を二分するような政策を推し進めた人を、国民的合意が前提となる国葬に付すのは認められない。

 第1次政権にさかのぼれば教育基本法を改悪した。第2次政権の2014年には集団的自衛権行使を容認する憲法解釈を閣議決定した。経済政策「アベノミクス」の柱に位置付けた大規模な金融緩和がいま何を招いているかというと出口なき円安。国の長期債務残高も1千兆円を超えている。

 新型コロナウイルス禍だけでなく「新型コロナ対策禍」もあった。布製の「アベノマスク」は不良品が多く、税金の無駄遣いと批判された。全国一斉休校の要請が、専門家の裏付けもなく効果もなかったことを民間のコロナ臨調が検証している。非正規雇用者は貧困に追いつめられた。

 そもそも政権を2度も投げ出した。体調のせいだと同情されたが、無責任きわまりない。長期政権で世論と政治のギャップが拡大した。たとえば夫婦別姓に世論は肯定的なのに政治はネガティブ。世論とずれがあっても選挙では投票率が上がらないため、自民党が組織票で勝ってきただけだ。

 私は大学教授や作家たちと、国葬中止を求めるインターネット署名活動を始めた。他の抗議署名と合わせると40万筆を超える。報道各社の世論調査でも国葬反対の人たちが増えている。安倍さんの失政を国民は忘れていないということだ。

 安倍さんは旧統一教会の友好団体の集会にビデオメッセージを寄せていた。存命なら矢面に立たされていたはずだ。

 国葬を決めた岸田文雄首相の説明も納得できない。諸外国の弔意を理由に挙げているが、元首クラスや経験者が亡くなれば、どの国も示す儀礼外交だ。そもそも「国民には弔意の強制はしない」と言う岸田首相は既に腰が引けている。弔いの気持ちを国民が共有できないと思うなら、やるべきでない。「自民党葬」をおやりになればいい。政権奪還の大恩人で、党の救世主だったのでしょうから。 (聞き手は境信重)

うえの・ちづこ
 48年富山県生まれ。京都大大学院文学研究科博士課程修了。コロンビア大客員教授、東京大教授を経て、11年から認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク理事長。専門は女性学、ジェンダー研究。

(2022年9月7日朝刊掲載)

[考 国葬] 国挙げて悼む 当たり前 元自民党政調会長 亀井静香氏/前提の国民的合意なし 東京大名誉教授 上野千鶴子氏

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