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中央図書館所蔵 3万点どう活用 広島文学資料 近代史語る一級品 「再整備機に在り方検討を」

 広島市が進める市中央図書館(中区)の再整備計画で、同館が所蔵する3万点以上の「広島文学資料」の保管、活用法が不透明だ。いずれも近代の広島の歴史や日本文学の一端を物語る第一級の資料。市が移転候補先の一つに挙げる商業施設は歴史資料を収蔵するには課題も多く、専門家は「再整備を機に、計画的に保全、活用を考えるべきだ」と指摘している。(桑島美帆、加納亜弥)

 「広島文学資料」は、児童文学者鈴木三重吉、被爆作家原民喜、原爆詩人峠三吉たち21人の直筆原稿、初版本、書簡などで、3万3526点に上る。三重吉が主宰した児童雑誌「赤い鳥」の原本196冊や、夏目漱石の直筆書簡、原民喜の遺書など、貴重な一次資料を豊富にそろえる。

特別な管理せず

 資料の大半は館内2カ所にある113平方メートルと133平方メートルの書庫の一角に収められ、担当する学芸員は1人。特別な温度、湿度管理はしておらず、保管状況は十分とはいえない。市は1987年、3階に約65平方メートルの資料展示室を開いたが、職員の常駐はなく、展示数もわずかだ。

 これらの資料について、市は21日に市議会総務委員会へ報告した再整備方針案で、「引き続き十分に保管・管理」するなどと示したものの、具体策は明記していない。また市が移転候補の一つに挙げる商業施設エールエールA館(南区)は、防火、空調面で課題がある。スプリンクラーが作動すれば資料へのダメージが想定される。不特定多数の人が出入りするため、保安上の問題も発生する。

 日本近代文学館理事長で早稲田大の中島国彦名誉教授(76)は「日本文学にとって非常に貴重な資料。学術的にフォローするチームを配置し、しっかりと保管・公開できるスペースを確保するべきだ」と話す。

浅野文庫1万点

 市中央図書館は、広島藩最後の藩主浅野長勲(ながこと)が1926年に現在の中区小町に開いた浅野図書館が前身。現在、館内では歴代の浅野家が寄贈した「浅野文庫」コレクション1万点も収蔵する。

 主に江戸時代に収集された和漢の古書や絵図のうち、疎開で原爆被災を免れた資料を前室と金庫扉を備えた約64平方メートルの収蔵室で保管。限られた職員だけが入室可能で、空調や湿度を一定に保つよう学芸員が毎日確認しているという。

 市は浅野文庫について「広島の文化、伝統を後世に伝えるための重要な資料」と位置付け、保管先については「移転と切り離して検討する」と説明。「浅野家の意向を確認しながら保存に適する施設を検討する」(生涯学習課)という。しかし、別の施設が必要になった場合の予算や場所について青写真は見えてこない。

 慶応大の田村俊作名誉教授(73)=図書館情報学=は「浅野文庫は広島のアイデンティティーに関わる資料で、中央図書館のコアの部分でもある。それを踏まえ、中枢館としての図書館の在り方を丁寧に考える必要がある」と話している。

広島市中央図書館の再整備計画
 広島市は昨年11月、中区の中央公園にある中央図書館、映像文化ライブラリー、こども図書館をJR広島駅前の商業施設エールエールA館(南区)に移転する計画を公表。市民の意見を踏まえ、今年9月、こども図書館を現在地に残す方針に転じた。中央図書館の整備地については、現在地、中央公園内、A館を比較検討し、本年度内に決める見通し。

(2022年11月23日朝刊掲載)

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