×

社説・コラム

『潮流』 「ペルシアびと」の川柳

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 サッカーのW杯は終わっても、日本代表の躍進に沸いた余韻は冷めない。さらに決勝は、眠気も吹き飛ぶ圧巻の試合だった。

 同時に、国の名を背負った若者の命を案じる気持ちも、冷めないどころかさらに重苦しい。圧政への抵抗運動が弾圧され、市民が死刑台に送られているイランのことである。

 グループステージの初戦で、代表選手は国歌を斉唱しなかった。すると政権を支える革命防衛隊は、抵抗への加勢と見なし「家族を刑務所に送る」と選手を脅したという。死刑の危機にある国内選手もいると聞く。髪を覆うスカーフの使い方を巡り風紀警察に連行された女性の死を起点に、路上から自由と人権を求める民衆蜂起はなおも続く。

 「勇敢な 素手で闘う ペルシアびと」。日本がスペイン戦勝利に湧いた今月初め、イラン出身で広島在住20年のナスリーン・アジミさんが自らの苦悩をつづった英文の日記と日英併記の川柳を読ませてくれた。素朴な言葉が胸に響く。

 被爆樹木の種や苗を世界に広める団体「グリーン・レガシー・ヒロシマ・イニシアティブ」の共同創設者。国連訓練調査研究所(ユニタール)の広島事務所長などを務めた。

 個人の立場から故国の圧政を指弾する「ペルシアびと」の一人である。「もっとヒロシマから声を上げてほしい。必ずイランに届く」と目を潤ませ語る。

 W杯ではスタジアムでごみを拾う日本人が称賛された。世界がそこに「道徳」を見たのだろう。歓喜の中でも人権問題を見過ごさない「倫理」「正義」も誇れるようでありたい。特に、77年前にあらゆる人間の尊厳を奪われた被爆地は―。

 「夢を持つ 世界の若者 イランでも」。ヒロシマ平和メディアセンターのウェブサイトに川柳・日記を英語と日本語で掲載した。

(2022年12月22日朝刊掲載)

川柳・日記はこちら

年別アーカイブ