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連載・特集

核兵器禁止条約 第2回締約国会議を終えて <上> 成否 核抑止論否定に挑戦

 米ニューヨークの国連本部で11月27日~12月1日に開かれた核兵器禁止条約の第2回締約国会議は、核抑止論を強く否定し、核兵器の全廃を誓う政治宣言を採択した。来月で発効3年を迎える条約の下で「核兵器のない世界」へ進もうと、加盟国は精力的に議論を重ね、広島の被爆者たちも後押しした。ただ、日本政府は出席しなかった。成果と課題をみた。(宮野史康)

依存国とは なお隔たり

 「ほかの核兵器に関する協議と異なり、私たちは政治宣言に合意した」。デラフエンテ議長(メキシコ)は1日の閉幕後、国連本部での記者会見で、こう皮肉り、にやりと笑った。

 ほかの協議とは、核保有五大国を含む約190カ国が加わる核拡散防止条約(NPT)の再検討会議を指す。2015年は米国とアラブ諸国の対立で、22年はウクライナ情勢に絡むロシアの反発で立て続けに決裂した。26年の次回へ仕切り直しを狙った今夏の準備委員会も、イラン核問題でもめ、議長の総括文書を作れなかった。

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 1970年に発効し、核を巡る多国間交渉の礎となってきたNPT体制の形骸化が叫ばれる中、禁止条約の締約国会議には、前回を11上回る94カ国・地域が出席した。

 会見に同席した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))政策・研究担当のアリシア・サンダースザクレさんは「条約は機能している」と強調。参加国の拡大に加え、核兵器の非人道性や核軍縮の検証方法を調べる科学諮問グループの活動、核被害者を援助する信託基金の議論の進展を理由に列挙した。

 とりわけ会議で焦点が当たったのが「核抑止への挑戦」だ。「軍事において核兵器が抑止の手段になるという幻想を解かなくてはいけない」(ガイアナ)「軍事と安全保障政策における核抑止に反対する」(バングラデシュ)…。エジプトは「核共有と拡大抑止政策はNPTの目的と原則に反する」とも主張した。

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 政治宣言は「核軍縮の進展を阻害している」と、核抑止を強く否定した。オーストリアは、新たな科学的分析によると、核兵器が全ての国と人類の安全を損ねていると指摘。「安全保障上のまっとうな懸念」を精査し、25年の第3回会議に報告書を出すまとめ役を担う。

 締約国会議には、米国の「核の傘」に頼るオーストラリア、ドイツ、ノルウェー、ベルギーがオブザーバー参加したが、溝が埋まったわけではない。ドイツはロシアのウクライナ侵攻で「核抑止の重要性は高まっている」と断言した。昨年6月の第1回に出たフィンランドは今年4月に欧米の核同盟である北大西洋条約機構(NATO)へ加わり、今回欠席した。

 核抑止に固執する保有国や一部の非保有国に向け、禁止条約の推進国は、科学に基づいて論理だって核抑止を否定し、同志に巻き込みたい狙いがある。「条約の勢いは今も失われていない」とデラフエンテ議長は言う。核を巡る厳しい国際情勢をはねのける推進力を示せるか、正念場だ。

(2023年12月7日朝刊掲載)

核兵器禁止条約 第2回締約国会議を終えて <下> 被爆国の溝 政府 際立つ消極姿勢

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