×

ニュース

旧陸軍被服支廠 3棟保存を正式表明 広島県 耐震化24年度着工予定

 広島市南区にある最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠」を巡り、広島県の湯崎英彦知事は16日の記者会見で、県所有の3棟を保存すると正式表明した。従来の「1棟外観保存、2棟解体」とする安全対策案から方針転換した。2024年度の耐震化工事の着手を予定している。

 国重要文化財(重文)への指定が確実になり、耐震化工事の財源確保にめどがついたという。湯崎知事は「被爆建物としても、戦前の広島の役割を今に伝える文化財としても、後世に残していく大きな意義がある」と述べた。

 県と市は24年度当初予算案に耐震化に必要な費用を計上する。事業費は29億円台半ばとなり、建築資材の高騰や工法変更などで従来試算の1・7倍になる。半額を文化庁の補助金で賄い、残る半額を県と市で折半する。

 県が所有する1~3号棟のうち、平和学習拠点としての活用を想定する1号棟は、耐震化工事の終了後に市へ無償譲渡する。4号棟は、所有する財務省が保存活用に向けて24~26年度に耐震化工事をする予定だ。

 県は19年12月に「1棟外観保存、2棟解体」とする案を公表し、被爆者団体などが反発。県は見直しを検討してきたが、耐震化費用の確保が最大の課題だった。県は今後、国、市とつくる研究会で利活用策を議論するとしている。(河野揚)

財源負担「1対1」 市が了承

 広島県が旧陸軍被服支廠の3棟の保存を正式表明したのは、耐震化工事費を巡る国の支援獲得に加え、広島市との財源負担の協議が決着したことが背景にある。県は負担割合を「1対1」とすることにこだわり、市が受け入れた形だ。県と市は今後、利活用策の検討に注力する。

 「さまざまな調整の結果だ」。湯崎英彦知事は16日の記者会見で、このタイミングで保存を表明した理由をそう述べた。

 県が2019年12月に打ち出した「1棟外観保存、2棟解体」案。これに異議を唱えた一人が市のトップだった。松井一実市長は同月の記者会見で「できる限り全棟を保存してほしい」と県に伝えたことを明かした。

 県議会で「市にも負担を求める必要がある」との声が高まる。当時、市中心部では大型プロジェクトが本格的に動き出していた。サッカースタジアム建設を巡る基本方針がまとまり、財政難を抱える県市の負担額が焦点として浮上していた。

 サッカースタジアム建設の県市の負担割合は22年2月、建設主体の市の主張通り「1対1」で決着。県は被服支廠についても「1対1」が譲れない基準となり、最終的に市が了承した。

 3棟の耐震化費用は想定の1・7倍に膨らみ、今後、維持管理費の支出も続く。県議会にはいまだに「1棟外観保存、2棟解体」を支持する声が根強く、市への複数棟の譲渡を求める意見も出ている。

 財政面では利活用の改修費がさらに必要になる可能性もある。駐車場がないため集客にも課題は多い。利活用策をどう具体化するのか。湯崎知事は「一定の時間をかけながら議論を進める」と述べるにとどめた。(河野揚)

(2024年1月17日朝刊掲載)

被服支廠 国重文19日指定 文化庁、耐震化へ協議

年別アーカイブ