在外被爆者対策 坂口厚労相に聞く 詳報 反発する団体、理解待つ 進む高齢化「窮状は承知」
02年8月16日
在外被爆者対策について聞いた、坂口力厚生労働相インタビューの詳報は次の通り。(荒木紀貴)
―在外被爆者の置かれている現状について総体的な認識をお聞かせください。
特に多いのは韓国、アメリカ、ブラジル、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の四カ国。外国のことのように見えるが、日本人であったり、元日本人であったりする人たちだ。どうするかを考えないといけない。
―どんな支援策を考えていますか。
国情はさまざまで(日本への要望も)各国の被爆者団体によって意見が違う。しかし国によって別々にはできない。一様に扱う以外にない。
―海外へも被爆者援護法を適用するよう求める声が多い。訴訟が相次ぎ地裁段階では国の敗訴が続いています。
一件(九九年の広島地裁判決)は勝訴し、二件(二〇〇一年の大阪と長崎地裁判決)は負けた。同じ法律について違う意見が述べられた。日本の法律を外国にも適用すべきという意見と、権利の及ぶ範囲で及ぶという判決。地裁だけの判決で判断できない。すべての裁判を高裁で係争中である。
―今年七月から国が始めた支援事業は、被爆者健康手帳を取得してもらうのが狙いですか。
(手帳交付を通じて)在外被爆者の実情を把握したい。どこで被爆したのかを把握し、現在の健康にも相談に乗らないといけない。支援事業の基礎的なデータになる。
―実情とは何ですか。
数だ。一体全体、被爆者は何人いるのか、ある程度分からないと対応のしようがない。数によって、支援策の予算額も決まる。まず最初は数。特に北朝鮮の実態は分からない。
―海外の被爆者団体は「高齢で渡日は難しい」と反対しています。
元気な方もおみえになる。難しい人も当然あるだろうが、そういう理由を付けて、みんなを日本に来させないのはいかがなものか。おみえになれないなら「(現地に)出張させていただきます」と言っているのだから、ご協力をいただきたい。そうでないと、すべてが進まない。みんなのためにならない。
―大臣はこれまで何度も「次もある」と発言されました。その真意は。
まずは実態を把握し、「どうするか」を決めるということ。次は、厚労省だけで決まる話ではない。外務省や財務省も絡む。
―厚労省内部では「次」の内容を検討しているのですか。
まだそこまで行っていない。
―個人的にイメージはできていますか。
できていない。
―広島市は、現地で被爆者がかかった医療費の補助を国の事業でできないかと研究しています。
どの人が被爆者か分からないと、考えることもできない。それが分かって、その次に何をするか、こういう話になる。(すべての在外被爆者への手帳交付にかかる期間は)三年と言っているが、一年で済めば「その次に何をするか」に入っていける。(現在のように)入り口に大きな石が置かれてしまえば、話が進まない。
―国が現地に出向き、理解を求めることが必要ではないですか。
(在外被爆者団体の)リーダーにも何度かお会いし、話をした。皆さんは「この次に何をするかを先に言え」と言われる。だが、どれだけの被爆者がいるのかを把握もできないのに、何をするのかは言えない。「次もある」と言っているのだから、そこは信頼していただく以外にない。
―膠着(こうちゃく)状態に見えます。
早く協力していただき、実態を把握することが、次の対策をどうするのかを早く考えることに結びつく。入り口のところで拒否されると、次に進む機会をなくしてしまう。
―打開策をお考えですか。
それはやはり、リーダーの皆さんに理解してもらうしかない。韓国原爆被害者協会の会長とも話をしたが、分かってもらえない。こちらは理解してもらうのを待つ以外にない。
―本年度計上した五億円の予算が余りそうですね。
(今のままであれば)そうなるでしょう。
―来年度の予算編成に影響はありませんか。
あまり要らないということになれば、「来年度は予算額をもっと減らせ」と財務省は言ってくるでしょう。(本年度の予算折衝の時も)「なぜそんなことをやらないといけないのか」との声もあったわけですから。(厚労)省としては早く前に進めたいが、国としては「協力をしてもらえないものを急ぐ必要はないではないか」という意見も現実にはある。
―高齢化した在外被爆者のため、対策を急ぎたいとの思いはお持ちなのですね。
それはそうだ。それでスタートした。立ち消えになっていたのを掘り起こしたわけですから。それは理解してもらわないと。ただ、私もいつまでも(厚労相に)いるわけではない。今後どうなるのか。不確定要素はさらに大きくなっていく。
(手帳交付を通して被爆者の実態が分かり)次の段階に行くことができれば、「では、どうするのか」という話になる。海外の被爆者が厳しい状況にあるのはよく分かっている。
《在外被爆者問題》1994年に成立した被爆者援護法に国籍条項はないが、適用は日本国内に限られ、在外被爆者は来日中を除き各種手当や医療費は支給されない。このため、在韓被爆者らが援護法適用を求めて相次ぎ提訴。昨年、大阪、長崎両地裁で被爆者側の勝訴判決が続いた。
これを受け、日本政府は本年度、「来日」を前提とした新たな支援事業を始めた。被爆者健康手帳を取得するための渡日費補助などで、現地での治療を望む海外の被爆者団体は反発。ブラジルの被爆者が新たな提訴に踏み切った。手帳取得の申請者もまだごく少数で、国の支援事業は難航している。
(2002年8月16日朝刊掲載)
在外被爆者数まず把握 追加支援にも意欲 坂口厚労相
―在外被爆者の置かれている現状について総体的な認識をお聞かせください。
特に多いのは韓国、アメリカ、ブラジル、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の四カ国。外国のことのように見えるが、日本人であったり、元日本人であったりする人たちだ。どうするかを考えないといけない。
―どんな支援策を考えていますか。
国情はさまざまで(日本への要望も)各国の被爆者団体によって意見が違う。しかし国によって別々にはできない。一様に扱う以外にない。
―海外へも被爆者援護法を適用するよう求める声が多い。訴訟が相次ぎ地裁段階では国の敗訴が続いています。
一件(九九年の広島地裁判決)は勝訴し、二件(二〇〇一年の大阪と長崎地裁判決)は負けた。同じ法律について違う意見が述べられた。日本の法律を外国にも適用すべきという意見と、権利の及ぶ範囲で及ぶという判決。地裁だけの判決で判断できない。すべての裁判を高裁で係争中である。
―今年七月から国が始めた支援事業は、被爆者健康手帳を取得してもらうのが狙いですか。
(手帳交付を通じて)在外被爆者の実情を把握したい。どこで被爆したのかを把握し、現在の健康にも相談に乗らないといけない。支援事業の基礎的なデータになる。
―実情とは何ですか。
数だ。一体全体、被爆者は何人いるのか、ある程度分からないと対応のしようがない。数によって、支援策の予算額も決まる。まず最初は数。特に北朝鮮の実態は分からない。
―海外の被爆者団体は「高齢で渡日は難しい」と反対しています。
元気な方もおみえになる。難しい人も当然あるだろうが、そういう理由を付けて、みんなを日本に来させないのはいかがなものか。おみえになれないなら「(現地に)出張させていただきます」と言っているのだから、ご協力をいただきたい。そうでないと、すべてが進まない。みんなのためにならない。
―大臣はこれまで何度も「次もある」と発言されました。その真意は。
まずは実態を把握し、「どうするか」を決めるということ。次は、厚労省だけで決まる話ではない。外務省や財務省も絡む。
―厚労省内部では「次」の内容を検討しているのですか。
まだそこまで行っていない。
―個人的にイメージはできていますか。
できていない。
―広島市は、現地で被爆者がかかった医療費の補助を国の事業でできないかと研究しています。
どの人が被爆者か分からないと、考えることもできない。それが分かって、その次に何をするか、こういう話になる。(すべての在外被爆者への手帳交付にかかる期間は)三年と言っているが、一年で済めば「その次に何をするか」に入っていける。(現在のように)入り口に大きな石が置かれてしまえば、話が進まない。
―国が現地に出向き、理解を求めることが必要ではないですか。
(在外被爆者団体の)リーダーにも何度かお会いし、話をした。皆さんは「この次に何をするかを先に言え」と言われる。だが、どれだけの被爆者がいるのかを把握もできないのに、何をするのかは言えない。「次もある」と言っているのだから、そこは信頼していただく以外にない。
―膠着(こうちゃく)状態に見えます。
早く協力していただき、実態を把握することが、次の対策をどうするのかを早く考えることに結びつく。入り口のところで拒否されると、次に進む機会をなくしてしまう。
―打開策をお考えですか。
それはやはり、リーダーの皆さんに理解してもらうしかない。韓国原爆被害者協会の会長とも話をしたが、分かってもらえない。こちらは理解してもらうのを待つ以外にない。
―本年度計上した五億円の予算が余りそうですね。
(今のままであれば)そうなるでしょう。
―来年度の予算編成に影響はありませんか。
あまり要らないということになれば、「来年度は予算額をもっと減らせ」と財務省は言ってくるでしょう。(本年度の予算折衝の時も)「なぜそんなことをやらないといけないのか」との声もあったわけですから。(厚労)省としては早く前に進めたいが、国としては「協力をしてもらえないものを急ぐ必要はないではないか」という意見も現実にはある。
―高齢化した在外被爆者のため、対策を急ぎたいとの思いはお持ちなのですね。
それはそうだ。それでスタートした。立ち消えになっていたのを掘り起こしたわけですから。それは理解してもらわないと。ただ、私もいつまでも(厚労相に)いるわけではない。今後どうなるのか。不確定要素はさらに大きくなっていく。
(手帳交付を通して被爆者の実態が分かり)次の段階に行くことができれば、「では、どうするのか」という話になる。海外の被爆者が厳しい状況にあるのはよく分かっている。
《在外被爆者問題》1994年に成立した被爆者援護法に国籍条項はないが、適用は日本国内に限られ、在外被爆者は来日中を除き各種手当や医療費は支給されない。このため、在韓被爆者らが援護法適用を求めて相次ぎ提訴。昨年、大阪、長崎両地裁で被爆者側の勝訴判決が続いた。
これを受け、日本政府は本年度、「来日」を前提とした新たな支援事業を始めた。被爆者健康手帳を取得するための渡日費補助などで、現地での治療を望む海外の被爆者団体は反発。ブラジルの被爆者が新たな提訴に踏み切った。手帳取得の申請者もまだごく少数で、国の支援事業は難航している。
(2002年8月16日朝刊掲載)
在外被爆者数まず把握 追加支援にも意欲 坂口厚労相