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原爆犠牲者のDNA型鑑定 広島市【解説】市民の被害解明に一石

 原爆供養塔に納められた遺骨の身元特定のため、広島市がDNA型鑑定へとかじを切った。国は戦没者の遺骨返還のためDNA型鑑定を行っているが、基本的な対象は戦死した軍人や軍属に限る。今回の決定は、一般市民の戦争被害の解明を怠ってきた国の姿勢にも一石を投じるものだ。

 国は、激戦地だった太平洋の島々や沖縄、旧ソ連のシベリア抑留の地などで遺骨を収集する。遺族への返還も含めた事業は、2016年施行の戦没者遺骨収集推進法に基づく。条文で「国の責務」と明記。29年度までを集中実施期間として取り組んでいる。

 一方で、原爆や空襲で犠牲になった市民は対象外だ。これまでも原爆犠牲者の遺骨の発掘や管理は市や個人が担ってきた。約7万人分とされる遺骨を納める原爆供養塔に肉親の手がかりを求める遺族にとっては、市の納骨名簿しかたどる手段がなかった。

 国は原爆や空襲で犠牲になった市民を「一般戦災者」として軍人・軍属たち「戦没者」と区別し、戦争被害は国民が等しく我慢しなくてはならないという「受忍論」を強いている。遺骨の収集・返還にもその壁が存在する。市のDNA型鑑定は、戦争による市民の犠牲に国や行政がどう向き合っているかを映している。(山本祐司)

(2025年11月17日朝刊掲載)

原爆犠牲者のDNA型鑑定 供養塔の遺髪 広島市 初実施へ 身元特定の可能性

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