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社説・コラム

社説 ヒロシマ・ナガサキ宣言 核兵器なくす「てこ」に

 核兵器のない世界を目指して行動しよう。そう政治家や市民に呼び掛ける「ヒロシマ・ナガサキ宣言」が17人のノーベル平和賞受賞者の連名で発表された。

 「とてつもない規模の惨禍を人類にもたらす」のが核兵器。廃絶こそが「より安全な地球を築くために必要不可欠」と訴えている。

 呼び掛けから十日余り。記事を載せた新聞は地方紙を中心に40を超す。社説やコラムで取り上げた社もある。国会論戦で一部が読み上げられたり、趣旨に賛同した市民がブログで紹介したり。米国の通信社や、有力インターネット新聞も報じている。国内外の広がりに、確かな手応えを感じる。

 追い風が吹いている。その象徴がオバマ米大統領のプラハ演説だ。核兵器のない世界に向けて具体策を取ると明言した。「核兵器を使った唯一の保有国として行動する道義的責任がある」とも言い切った。かつては予想もできない核超大国トップの発言。歴史的チャンスといえる。

 平和賞受賞者の中には、宣言に加わらなかった人もいる。カーター元米大統領やキッシンジャー元米国務長官、ゴルバチョフ元ソ連書記長ら米ロの政治家が目立つ。しかし立場が違うわけではない。

 キッシンジャー氏らは近年、核兵器廃絶を強く主張している。拡散に歯止めがかからず、テロリストに渡る恐れさえ出ている。ならば核を持っているよりも、世界中からなくす方がより安全だ、と。この考えは宣言とも共通する。米国の世論にも変化が兆しているのだろう。

 具体的な行動も見えてきた。世界の核兵器の9割以上を持つ米ロによる核軍縮交渉の始まりである。大幅に削減できれば、他の保有国を動かすことも可能となろう。来年5月には核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開かれる。成功への弾みにもなるのではないか。

 気がかりは、二度目の核実験を強行した北朝鮮だ。核保有は、その地域はおろか世界の平和と安定を脅かすものでしかない。国際社会が一致して、強いノーを突き付ける覚悟が要るだろう。

 宣言も触れているように「対人地雷」と「クラスター爆弾」の二つの禁止条約は、廃絶しようとする強い意志によって実現した。核兵器もなくせるはずだ。宣言を、人々の決意を後押しする「てこ」にしたい。

(2009年5月31日朝刊掲載)

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