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社説・コラム

コラム 視点 「来る衆院選挙 有権者の1票が決める日本の核政策」

■センター長 田城 明

 「私たちは、世界中の人々に、自国の指導者たちに強く働きかけることを呼び掛けます。核軍縮、廃絶に向けて行動しないことによる差し迫った危険を把握し、その前進のために政治的意志を喚起すべきであることを」

 ノーベル平和賞受賞者17人が、中国新聞(5月18日付)とヒロシマ平和メディアセンターのウェブサイトを通じて発表した 「ヒロシマ・ナガサキ宣言」 の一節である。「指導者たち」には、首相や大統領のみならず、国政にかかわるすべての議員が含まれよう。有権者にとって選挙で誰を選ぶかが、指導者への「働きかけ」の第1歩といえる。

 その機会が2週間後の30日にある衆院選で訪れる。年金、医療、経済など暮らしに直結する問題が山積するなかで、外交・安全保障政策はややもすると争点になりにくい。だが、政治家の最大の仕事は「戦争を起こさせない国家運営をすることだ」ともいわれるように、隣国をはじめ世界各国といかに平和共存を図るかは、常に最重要課題なのだ。

 危険な核時代を終わらせるために、被爆国としてどのようなイニシアチブを取るのか。原爆の惨禍を知る被爆地広島・長崎は常に「核兵器は絶対悪である」との立場から、核抑止力の考え方を否定してきた。今こそ米国の「核の傘」に依存しない日米同盟の在り方や、アジア諸国を含めた安全保障体制の確立を目指すべきではないか。

 南アフリカ共和国は、核兵器を製造しながら、すべての核弾頭を解体した唯一の国である。当時のデクラーク元大統領は、核兵器や軍事力に頼るよりも、隣国との話し合いによる合意が「すべての南アフリカの人々に、長期にわたる安全保障をもたらす」と考え、核兵器全廃を決断したという。

 そこにあるのは発想の転換である。「ヒロシマ・ナガサキ宣言」でも、核拡散と核軍縮の停滞しか招かない核抑止力に代わる新しい考え方の必要性が強調されている。

 さて衆院選を控え、 核兵器や安全保障政策をめぐる各党のマニフェスト は出そろった。いずれの政策が、ノーベル平和賞受賞者の呼び掛けに応え、「核兵器なき世界を目指す」と明言したオバマ米大統領の政策実現に貢献できるのか。とりわけ被爆地から選出される議員には、核軍縮・廃絶に向けて働く大きな責務がある。どの候補者や党にその役割を託すか。私たちの1票もまた重い。

(2009年8月18日朝刊掲載)

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