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緑地帯 指田和 消えた家族を追って <4>

 原爆で全滅した鈴木六郎さん一家。もう会うことのできないこの家族にさらに肉薄するにはどうしたら良いか…。普段の取材のようなインタビューは叶(かな)わない。頭を抱えたが、「いや、初心に戻れだ」と腹を決め、ひたすら家族のアルバムを見ることに没頭した。

 2千枚はある、六郎さんが撮影した写真。家族の日常にフォーカスした写真を中心に、私の心に何かしら感じるものがあれば、そのページに付箋をつけた。全部のアルバムを見終わったところで、次は付箋のページを集中して見ていく。

 同じような場面を撮った写真があれば、よりピントが合って表情が良いものを、と絞っていくこと4、5回。そうして付箋が複数枚貼られたページを延々とスキャンした。古いアルバムは表紙の角がはがれて痛みがひどく、頻繁に開くのがためらわれたからだ。

 その後、スキャンしたデータをさらに目を皿のようにして見ていき、「心動かされる写真、気になる写真」はとにかくプリントしていった。その数約200枚。これは絵本に使わないかもと思っても、「面倒くさがらないでやる」と自分に言い聞かせ、作業を続けた。それが私なりの、この素晴らしい写真をのこした六郎さんへの、敬意の表し方だと思った。

 一連の工程は、落ち着いて作業が続けられる深夜が多かった。「きっと六郎さんも、夜中に現像や焼き付け作業をしていたんだろうな」。熱いコーヒーを飲みながら一息つくと、会ったこともないはずの六郎さんの存在が、ふと近く感じられる瞬間があった。(児童文学作家=埼玉県)

(2019年12月12日朝刊掲載)

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