×

ニュース

「映画で平和に」忘れぬ 大林宣彦監督死去 関係者ら悼む

 尾道市出身で10日に82歳で亡くなった大林宣彦監督。故郷などのゆかりの関係者からは、映画界の巨匠の訃報を悼む声が相次いだ。(里田明美、田中謙太郎)

 尾道3部作の第1作「転校生」から市民有志がスタッフとして撮影を支えてきた。大道具を担当した同市の建築事務所経営大田貞男さん(73)は「安易に開発せず、雑巾がけのように魅力を磨くべきだ」と尾道について大林監督が語ったのを思い出す。尾道の古民家から出た古いガラスを「海辺の映画館―キネマの玉手箱」のセットに使うと、監督から「立派だねえ」と褒められたという。

 「街の日常を掘り下げることの大切さを教えてもらった」としのぶのは、ロケ地やエキストラの手配をしてきた同市の喫茶店経営大谷治さん(68)。「尾道に暮らしていることを市民が誇りとしていきたい」と誓っていた。

 二つの大林作品でプロデューサーを務めた広島市中区の門田大地さん(61)は「人生はバッドエンドが多いけど、映画にはハッピーエンドという表現がある」と映画の力を信じた監督の口癖をかみしめる。「海辺の映画館」でヒロインの1人に抜てきされた下関市の新人女優吉田玲さん(18)は「映画のことをたくさん教えてもらい、第二のお父さんのような存在だった」と声を落とした。

 昨年11月の広島国際映画祭では病を押して広島市中区の会場を訪れた。事務局スタッフの西崎智子さん(54)は「国内外の若い監督たちと会話を弾ませていた。映画のそばにずっといたいという気持ちが伝わってきた」と振り返る。

 「良い映画は未来を平和にする映画」―。同映画祭代表で映画美術監督の部谷京子さん(65)は、閉幕式での監督の言葉が忘れられない。「監督自身の信念であり、そうした映画を作り続けてほしいというメッセージ」と受け止め、今年から同映画祭のテーマにすることを決めた。

 中区で「八丁座」などを運営する序破急の蔵本順子社長(69)は「地方の映画館の厳しさをよくご存じで、会うたびに『よう頑張っとるね』と励まされた。いつも優しいまなざしと言葉で包んでくれた」と語る。親しかった映画人の一人、山田洋次監督(88)は「大切な、大切な友人を失ってしまった。唯一無二のユニークな監督であり、戦争を激しく憎み平和を愛してやまない優しいアーティストだった」とたたえた。

(2020年4月12日朝刊掲載)

関連記事はこちら

大林宣彦さん死去 82歳 映画「時をかける少女」 尾道出身

評伝 幼少期の戦争体験 原点 映像の魔術師 無邪気さも

年別アーカイブ