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連載・特集

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない④

 地元北海道の音楽セミナーで出会った先生にどうしても習いたくて、19歳の春、東京の桐朋学園大学のアンサンブル・ディプロマコースに入学した。室内楽とオーケストラ、そしてチェロの実技のレッスンのみに特化したコースだ。札幌では同世代と一緒に室内楽を演奏する機会があまりなく、とにかく室内楽に飢えていて、「何でもするぞ」と意気込んでいた。

 チェロはピアノやバイオリンほど専攻する学生が多くないので、続々と声が掛かった。1年を通して同じメンバーで室内楽を勉強するカリキュラムがあったので、誘われるままに5組ほどエントリーした。さすがに「ちょっと多すぎじゃない?」と先生に心配されたが、自分にとっては夢のような環境だった。

 しかし、大きな挫折も味わった。まず、室内楽は難しい曲が多く、なかなか弾けない。さらに、弾きながら相手の音を聴くことができない。縦の線(楽器同士で音の出るタイミング)を合わせられない。メンバーのやりたいことが違って、まとまらない…。さまざまな困難に襲われて悩み、苦しみ、時に逃げ出し、泣いた。

 だが、合わなかった縦の線や音色、リズムやテンポがそろってみんなで一つになる瞬間を味わってしまうと、やみつきになる。決して一人では成しえない、えも言われぬ豊かな世界が広がるのだ。そして室内楽を通してさまざまなことを学んだ。自分を高めていくことの大切さ、人との付き合い方、音楽との向き合い方―。それは人としての生き方にもつながるとても大切なことばかりだった。(広島交響楽団チェロ奏者=広島市)

(2021年5月28日朝刊掲載)

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない①

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない②

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない③

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑤

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑥

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑦

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑧

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