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連載・特集

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑧

 広島交響楽団に入団して11年目を迎えた。広響のメンバーたちと続けてきた室内楽団の自主公演。それら全ての経験を、オーケストラでの演奏に還元できていると自負している。なぜならオケの基本は室内楽にあり! だからだ。室内楽もオーケストラも、奏者一人一人が隣、前後、はたまた一番遠くにいる人とコンタクトやコミュニケーションをとりながら一つの音楽を練り上げていく。時に主張し、ぶつかり合い、譲り合い、支え合い、助け合う。共鳴・共感のうねりが全ての感情をのみ込み、芸術の域まで達したその瞬間。広大で深淵(しんえん)な世界、まるで宇宙とつながるかのような感動を味わうことができる。

 北海道で生まれた「熊」が東京を経てドイツに渡り、今は広島をついのすみかにしたいほど気に入っている。山に囲まれ、川が流れ、そして海へと至る。人と自然が一体となった環境が、音楽の本質に通じると感じるからだ。

 あまたの作曲家が自然を愛し、自然と語らい、傑作を生みだしてきた。人類の宝といえる音楽をみんなで演奏する。その際に必要なのはお互いを認め合い、尊重し合うこと。つまりは寛容の精神である。それって人間社会にとって一番大切なことなんじゃないかなと思う。お互いを思いやり合うことができれば、世界から争いは消えるはずだ。アンサンブルは世界を救う! と声を大にして言いたい。そして、やがて訪れるとてつもなく優しい時間、音楽で一つになれる瞬間、そう、まさに一瞬が永遠になるその瞬間にわれわれは生きているのだ。(広島交響楽団チェロ奏者=広島市)=おわり

(2021年6月3日朝刊掲載)

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない①

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない②

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない③

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない④

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑤

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑥

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑦

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