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連載・特集

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない③

 札幌市に移り住んでチェロを習い、4年がたった中学1年の夏。父から「こんなセミナーが始まるみたいだよ」と、パンフレットを渡された。北海道十勝地方の池田町で、当時NHK交響楽団(N響)のコンサートマスターだったバイオリニスト・徳永二男さんが開催する音楽セミナーだった。チェロの講師は、同じくN響の首席奏者だった兄の徳永兼一郎さん。「いつもテレビで見ている演奏家に会える」と、ちょっぴりミーハーな気持ちで参加を決定した。

 いざ参加してみたら、受講生のほとんどは音楽大生。私はチェロでは最年少だった。弾けない自分に嫌気が差しはしたが、とても刺激的な10日間を過ごした。

 間近に聴いた兼一郎先生の太く、スケールの大きなチェロの音に驚いた。さらに、講師の先生によるメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番を聴き、あまりの格好良さにしびれてしまった。朗々とたっぷり歌うチェロ、切れ味するどく時にしなやかなバイオリン、そしてそれら全てを包み込む豊かなピアノ。30分ぐらい身じろぎもせず集中して聞き入った。曲が終わった瞬間、「あんなすごい演奏をしてみたい!」と身もだえするほど憧れた。

 このセミナーには9年連続で参加した。毎年、先生方が室内楽の名曲を披露してくださり、一人ではなく何人かで弾く室内楽というものにすっかり魅了されてしまった。そして何より、10代の多感な時期に憧れの演奏家、すばらしい名曲に数多く出会えたことが、人生最大の恵みとなった。(広島交響楽団チェロ奏者=広島市)

(2021年5月27日朝刊掲載)

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない①

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない②

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない④

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑤

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑥

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑦

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑧

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