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連載・特集

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑦

 2001年から7年間のドイツ留学中、収入を得るために定期的に帰国した。各地の音楽祭への参加、地方オーケストラへの客演、室内楽…。楽器を背負って飛び回る日々は、喜びと達成感、感動に満ちていた。05年、小澤征爾音楽塾の楽団の一員として広島を初めて訪れた。原爆資料館の見学は生きること、音楽をやることの意味を深く考えるきっかけとなった。

 08年に留学生活を終え帰国。広響がチェロ奏者を募集していることを知った。10年、2度目の挑戦でオーディションに合格。入団してみて温かい雰囲気と、欧州の地方オーケストラにも似た素朴で純粋な音を持っているな、という印象を抱いた。何より本番での勢いが素晴らしく、楽しいオーケストラだなとワクワクした。

 当時、広響で室内楽を定期的にやっているグループはまだそれほどなかった。最初に立ち上げたエスムス弦楽四重奏団では5年にわたるベートーベン・シリーズを「完奏」した。さらにアンサンブル響(ひびき)を設立。広響メンバーを中心に管楽器や打楽器、ピアノなどの奏者をゲストに招き、さまざまな編成による公演を年1度のペースで開く。それ以外に広島室内楽協会、オイゼビウス弦楽四重奏団、カムパネルラ・アンサンブル。学生時代からのアンサンブル・プレギエラは昨年25周年を迎えた。これら自主公演は赤字にならなければ御の字だが、広響メンバーは手弁当でも参加を快諾してくれる。お客さまも「オーケストラとは別の魅力がある」「広響のメンバーがより身近に感じられる」と応援を続けてくださっている。(広島交響楽団チェロ奏者=広島市)

(2021年6月2日朝刊掲載)

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない①

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない②

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない③

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない④

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑤

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑥

緑地帯 熊澤雅樹 室内楽へのいざない⑧

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