×

ニュース

再編交付金 15年延長へ 岩国など2市2町のみ 政府方針 22年度 新制度に移行

 政府は24日、2021年度で期限切れとなる米軍再編交付金について、22年度から15年間、新たな制度で継続する方針を決めた。22年度の対象は、空母艦載機が移転した米軍岩国基地のある岩国市など山口、広島両県の2市2町だけで計21億5千万円を見込む。(永山啓一、桑原正敏)

 防衛省は再編交付金を事実上延長する理由を「安全保障環境が一層厳しさを増す中、日米同盟の抑止力の維持と地域社会への影響の緩和を成り立たせるため」と説明している。

 07年度分から始まった再編交付金の15年間の支給額は、21年度の見込み額を含む15年間の合計で、岩国市201億5100万円▽山口県和木町37億1500万円▽周防大島町23億7200万円▽大竹市59億5300万円―の計321億円。新制度の交付額は単年度ごとに決まるが、再編交付金と同規模となる見通し。

 岩国基地には18年3月、厚木基地(神奈川県)から約60機の空母艦載機の移駐が完了し、所属機は倍増。台湾海峡を巡る米中の緊張を背景に、この1年は空軍機の飛来や大型艦船の寄港も目立つ。航空機騒音の影響を受けている基地周辺の市町からの要望を踏まえ、防衛省は後継の交付金をハード、ソフト両面で幅広く使えるようにする。

 一方、防衛省は新制度の対象市町の要件や市町ごとの交付額、交付金の使途の範囲など詳細を示しておらず「22年度に間に合うよう検討する」としている。

米軍再編交付金
 米軍再編推進法に基づき、政府が対象となる市町を指定し、在日米軍再編への協力の度合いや再編の進展に応じて支給する。米軍岩国基地(岩国市)周辺では、空母艦載機移転への協力姿勢を示した山口県和木町と周防大島町、大竹市が2007年度から交付対象となった。移転に反対していた岩国市は容認姿勢に転じた08年度から、07年度分も含めて受給していた。

【解説】防衛相地元に「特例」

 米軍再編交付金の後継となる新制度の対象は、米軍基地を抱える全国の自治体の中でも岩国基地周辺の2市2町だけだった。山口2区選出の岸信夫防衛相の地元からの強い要望に、政府が岩国限定の特例で応えた形といえる。

 米中対立により台湾情勢が緊迫する中、米軍は岩国基地の利用を質、量とも拡大している。極東最大級の航空基地では空母艦載機が飛び交うようになっただけでなく、米本土からの空軍機の飛来や大型艦船の寄港も相次ぐ。市民にとって新交付金は、航空機の騒音だけでなく、高まる事故や攻撃対象のリスクを受忍することへの対価といえる。

 再編交付金は特別措置法に基づいて政府が対象市町を指定し、米軍再編への協力度合いに応じて支給する仕組みだった。一方、新しい制度について、防衛省は大臣が決め、国会の議決が必要ない「訓令」で具体化するとしており、名称さえ決まっていない。まず予算だけ確保したが、枠組みや理由付けは後から示すという手法だ。

 2市2町はそれぞれ再編交付金を活用して道路や集客施設の整備、子どもの医療費無償化など幅広い事業を進めており、基地財源への依存度を高めている。

 新制度が、かつての再編交付金のように新たな基地負担への協力を、地元市町に迫る道具として利用される不安は拭い切れない。国会の監視機能が働きにくい訓令がどのような内容になるのか、市民目線のチェックが必要になる。(永山啓一)

(2021年12月25日朝刊掲載)

米軍岩国基地 再編交付金延長 <上> 進む共存

米軍岩国基地 再編交付金延長 <中> 苦悩

年別アーカイブ