米軍岩国基地 再編交付金延長 <中> 苦悩
21年12月27日
訓練地域 対策費頼れず
「いったい何が起きたのか」。11月29日の朝だった。広島県北広島町のリンゴ農園代表、岩本晃臣さん(53)は自宅から空を見上げ驚いた。米軍機が旋回した跡とみられる飛行機雲が幾重にもできていた。同様の雲は安芸太田町など広範囲に現れた。事実を確認する県の問い合わせに、米側は「航空機の運用の詳細は回答しない」とした。
翌30日には、青森県の米軍三沢基地所属の戦闘機が同県上空で燃料タンク2個を投棄し、住宅近くに落下させたニュースも飛び込んできた。岩本さんが思い出すのは2017年10月、農園で作業中、米軍機による火炎弾「フレア」の射出訓練を見た時の恐怖だ。「毎日のように飛び、騒音で会話もできなくなる時がある。部品の落下や事故の不安は大きい」と訴える。
騒音回数 急増
米軍岩国基地(岩国市)は18年3月、米軍再編の一環で厚木基地(神奈川県)の空母艦載機約60機が移転し、所属機はほぼ倍増した。移転に前後して広島県と島根県にまたがる訓練空域「エリア567」や周辺では米軍機による騒音が激しさを増している。
広島県のまとめでは、廿日市市や北広島町など4市町の6地点で人がうるさいと感じる70デシベル以上の騒音を観測したのは21年度上半期(4~9月)で計2742回。艦載機移転完了前の17年度の1・8倍となった。このうち世界遺産の島、宮島(廿日市市)は320回で3・7倍に急増した。
島根県西部でも同じ傾向がある。浜田市旭町の21年度上半期の騒音は663回と17年度の4・6倍だった。
10月には益田市の萩・石見空港に岩国基地所属の米軍機2機が「燃料不足」を理由に緊急着陸した。2機が空港を飛び立った翌日も浜田市旭町では29回も騒音を記録した。同町のカメラマン島津弘幸さん(61)は「特に昨年秋からは飛び方がひどい。家の上空を5回も6回も行き来する。もう、お構いなしですよ」と憤る。
訓練空域や飛行コース上の市町は艦載機の移転以降、騒音が増しているにもかかわらず、岩国基地に近い岩国市、大竹市、和木町、周防大島町とは異なり国から再編交付金の支給はない。22年度からの新制度でも対象になっていない。
広島県は17年度から毎年、米軍機による低空飛行訓練の中止に加え、訓練空域の自治体が騒音に対策するための財政措置を国に求めている。北広島町は実態を調べるため、独自に騒音測定器を町内4カ所に置き、年250万円をかけてデータを解析している。町危機管理課は「せめて騒音を測定する費用は国が出してほしい」と訴える。
「アメ」を警戒
ただ、従来の再編交付金は「米軍再編の円滑かつ確実な実施」に協力することが条件だった。騒音問題を抱える自治体には、国から「アメ」を受け取ることに警戒感が根強い。
訓練情報の開示や住民負担の軽減を求める島根県も、これまで国に交付金を要望してこなかった。県内5市町でつくる米軍機騒音等対策協議会副会長で邑南町の石橋良治町長は「騒音への対応を国に再三要望しているが、改善が見られず残念でむなしい」とする。一方で「交付金を受け取れば騒音を容認することになりかねない。これで我慢をというものなら、もらわない方がいい」と強調した。(与倉康広、下高充生、鈴木大介)
(2021年12月27日朝刊掲載)
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