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連載・特集

米軍岩国基地 再編交付金延長 <上> 進む共存

生活に浸透 基地マネー

 「これまでの外交・安全保障への貢献を、国が真摯(しんし)に受け止めていてくれた」。2021年度で期限が切れる米軍岩国基地(岩国市)周辺市町への再編交付金の後継制度の概要が明らかになった24日、岩国市の福田良彦市長は安堵(あんど)の声を上げた。

 国の22年度予算案では現在の支給対象と同じ2市2町で、計21億5千万円を計上する。期間も15年間とこれまでを踏襲した形となった。国の予算編成が迫るにつれて、地元選出の岸信夫防衛相(山口2区)や関係省庁への要望活動を強めた福田市長は「これからも騒音が続くということでもある。市民の暮らしに資する財源として今後も生かしていきたい」と気を引き締めた。

 在日米軍再編に伴う空母艦載機移転への協力と負担の見返りとして、国が毎年度支給してきた再編交付金。市は、08年度から14年間で201億5100万円(当初予算ベース)を受け取る見通しだ。全ての基地関連の補助金・交付金の2割以上を占める。08年に初当選した福田市長の一貫した国防への協力姿勢が生んだ基地マネーの象徴でもある。

14分野に活用

 再編交付金は、防災や福祉など市民生活に根差した14分野に活用されている。道路の拡幅工事やポンプ場整備、公園の改修…。地元経済にも波及する。岩国商工会議所の安本政人会頭は「建設や土木を中心に多くの仕事を生み、地元の企業を支えている。ないと大変なことになる」と胸をなで下ろす。

 放課後児童教室や小中学校のプール整備など教育環境への投資も多い。交付当初に始まった小学生6年生までの医療費無償化は、16年度に中学生まで拡大した。年3億円前後の医療費を補っている。

 JR岩国駅東口に22年3月に開設する「英語交流センター」は、基地との共存を形にした施設といえる。事業費1億8千万円の9割に再編交付金を充てる。

 市民に恩恵が広がる中、基地は機能強化へ動きを見せる。18年3月に空母艦載機約60機の岩国への移転が完了し、極東最大級の航空基地となった。21年に入り、軍種を超えた飛来機や大型艦船が相次ぎ基地に姿を見せている。戦闘機から降り注ぐ周辺の騒音も大幅に増えた。

受け止め複雑

 市民の関心はどうか。医療や交通など市の施策の重要度を尋ねる設問で、基地の安全対策を「重要」としたのは72・7%と31項目のうち16番目だった。90・1%だった18年度以降は下がり続けており、関心の低下も浮き彫りになった。

 市内の小学2年と園児の母親(42)は「子どもたちだけで年15~20回は病院に行く。とても助かっている」と市の手厚い支援に感謝する。ただ、こうも明かす。「長年この町で暮らし、空がうるさいのも当たり前。それでも、基地がどんどん大きくなるのはしょうがないとも思いたくない」。基地の機能強化を実感しつつ、その対価を、どう受け止めるべきか答えを見いだせないでいる。(有岡英俊)

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 米軍再編による負担の見返りとして基地周辺自治体に支給されてきた再編交付金が、同規模の新制度としてスタートする見通しが立った。生活への影響や基地の現状を追う。

(2021年12月26日朝刊掲載)

再編交付金 15年延長へ 岩国など2市2町のみ 政府方針 22年度 新制度に移行

米軍岩国基地 再編交付金延長 <中> 苦悩

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