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連載・特集

ふたりの被爆画学生展 <中> 伊藤守正「伐折羅大将」

りりしい姿 力強い筆致

 伊藤守正は、1923年に東京で生まれ、40年に東京美術学校(現東京芸術大)工芸科図案部に入学した。その3年後、学徒出陣で応召。飛行機監視哨隊の一員として長崎県の野母崎に派遣される。

 長崎市に原爆が投下された翌日の45年8月10日、実態を知らないまま市内に入る。復員後の46年9月、結核で生涯を終えた。23歳だった。母親は息子の被爆認定に奔走したという。

 神社仏閣を巡るのが好きだった伊藤は、りりしい姿の伐折羅(ばさら)大将を力強い筆致で描いている。立ちはだかる敵を倒したかのような躍動感のある右手は、伊藤の意志の強さが宿っているようにみえる。

 一方で、「お金を半分ずつ出してベートーベンの『第5番』を買わないか」と妹を誘い、結局全額出させて、ご機嫌でそのレコードを戦地に赴くまで聴いていたというちゃめっ気あるエピソードも残している。伊藤の作品はこの妹によって大切に保管されてきた。(平山郁夫美術館学芸員・幸野昌賢)

 <メモ>「無言館所蔵作品による ふたりの被爆画学生展―手島守之輔・伊藤守正―」(中国新聞備後本社など主催)は、尾道市瀬戸田町の平山郁夫美術館で22日まで。会期中無休。一般920円、高大生410円、小中学生210円。同館☎0845(27)3800。

(2022年7月1日朝刊掲載)

ふたりの被爆画学生展 <中> 伊藤守正「伐折羅大将」

ふたりの被爆画学生展 <下> 平山郁夫「アンコールワット遺跡 朝陽」1992年

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