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宏池会 遠のく軽武装 防衛費増 歴代4首相と比べ突出 伝統の経済重視に悪影響も

 バイデン米大統領との会談で、日本の防衛費の大幅引き上げを伝えた岸田文雄首相。9代目会長を務める自民党派閥の宏池会は、先の大戦を教訓に軽武装を志向するハト派とされた。宏池会出身の歴代首相のスタンスや防衛費の変化をたどると、岸田政権の防衛力強化の速さと増額幅が際立つ。中国の動向を念頭に安全保障で米国との一体化が進み、かつての派閥の理念から遠のきつつある。(ワシントン発 中川雅晴)

最小限度

 宏池会初代会長で竹原市出身の池田勇人氏は「軽武装・経済重視」で高度成長を実現した。1960~64年の首相在任中、防衛力整備計画を巡る国会審議で「自衛力については国民経済その他、万般の点を考慮して最小限度にとどめたい」と答えている。防衛費は2千億円前後だった。

 防衛力だけでなく、外交や経済など「非軍事」を生かして平和と安定を図る考えを提唱したのは、宏池会3代目会長の大平正芳氏。78~80年に首相を務め、総合安全保障構想を説いた。防衛費は2兆円を突破。続く4代目会長の鈴木善幸氏が首相だった82年までの4年間で7千億円近く増えた。

 広島県を地盤とし、宏池会5代目会長の宮沢喜一氏は、憲法9条を軸にした専守防衛を唱え、91~93年に首相を務めた。自衛隊の海外派遣に道を開いた国連平和維持活動(PKO)協力法の国会審議は紛糾したが、在任中の防衛費は4兆円台で、増額幅は約2500億円だった。

現実主義

 潮目が変わったのが、2017年のトランプ前米大統領の就任だ。トランプ政権は日本に米国製の防衛装備品を買うよう圧力を強めた。バイデン政権は対中国を最優先とするアジア戦略で、日本との連携を強める方針を打ち出し、日本の防衛力強化を全面的に支持。岸田首相は昨年5月に訪日したバイデン氏に防衛費の「相当な増額」を伝え、既定路線となった。

 岸田政権での防衛費の増額幅は宏池会の歴代首相の政権と比べ群を抜く。23年度当初予算案の防衛費は過去最大の6兆8219億円。22年度当初比で約1兆4千億円の大幅増となる。27年度には8兆9千億円程度に膨らむ見通しだ。

 反撃能力(敵基地攻撃能力)として米国製巡航ミサイル「トマホーク」を購入し、国産長射程ミサイルの開発・増産費も大幅に増やす。安保政策で米国との一体化を強める首相の姿勢に、地元の被爆地広島からは「軍拡競争への懸念が拭えない」との声が上がる。

 ロシアのウクライナ侵攻や中国の軍備増強を念頭に「新時代リアリズム外交」を掲げ、現実主義を貫く首相。防衛費増額の財源確保へ増税も打ち出した。国民生活を揺さぶるだけに丁寧な説明が欠かせない。対応を誤れば、宏池会が重んじる経済に悪影響を及ぼしかねない。

(2023年1月15日朝刊掲載)

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