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「無欲 ただ人形を作る」 辻村寿三郎さん死去 地元三次 悼む声

 三次市ゆかりの人形作家辻村寿三郎さんが89歳で亡くなった。独自の世界観で数多くの人形を生み出し、人々を魅了。創作の原点である三次市には地元の要望に応えて人形館を開設し、晩年を過ごした。交流のあった住民たちからは悼む声や感謝の言葉が相次いだ。

 「地位も名誉も求めない、無欲の人。ただ人形を作ることを生きがいにしていた」。辻村さんが終戦直前に11歳で移り、10年余り住んで演劇や人形作りの喜びを知った三次。同市三次町に現在工房を構え、二代目辻村寿三郎として活動する川崎員奥(かずお)さん(74)はしのんだ。

 華道家だった川崎さんは東京で辻村さんと出会い、1993年に弟子入りして一緒に歩んできた。「自分は見えを張らず、人形には惜しまずお金をかけた」と思い出を語る。辻村さんは拠点を三次市へ移すと決めた後の2015年に自宅で倒れ、以後は発話が難しくなったが、翌年に川崎さんとともに同市へ移住した。

 その前の13年には作品約300点を保管する「辻村寿三郎人形館」(三次町)が開館。鷲尾操館長(74)は「辻村さんも喜び、三次ゆかりの阿久利姫などの新作を手がけてくれた。ふらっと来てお客さんと話をしていて、気さくな人だった」と懐かしむ。約15年前に辻村さんの人形教室に参加して以来、制作を続ける野宗(のそ)淳子さん(60)=広島市東区=は「人形を作ってほしいとお願いしたら、娘姿の人形を作ってくれた。今でも宝物です」とほほ笑む。

 三次市内の病院で約7年間、療養した辻村さん。新型コロナウイルス禍での制限前は毎日訪ねたという川崎さんは「技術以上に辻村さんの思いを継ぎ、一人でも多くの人に受け渡していきたい」と力を込める。

 同市の福岡誠志市長は「市民の豊かな心を育み、文化・芸術への関心を高めるとともに、観光交流人口の拡大や市の認知度向上に多大な貢献をいただいた」とのコメントを出した。

 同人形館を運営する「一般社団法人寿三郎みよし」によると、お別れの会の開催を検討している。(石井千枝里、千葉教生)

(2023年2月14日朝刊掲載)

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