×

ニュース

今井政之さん死去 巨匠でもおおらか ゆかりの人しのぶ

 竹原市の窯で生み出した作品が、多くの人を魅了した。高度な面象嵌(ぞうがん)の技法で陶芸に刻んだのは、瀬戸内海の魚などの躍動する姿だった。京都市在住で6日に92歳で死去した文化勲章受章者の今井政之さん。ゆかりの人たちは、情熱にあふれる創作と人柄をしのんだ。(西村文、福田彩乃)

 「昨年の日展の審査会でご一緒した。驚きと悲しみでいっぱい」。今井さんとともに日本最大級の美術公募展「日展」をけん引してきた三次市出身の人形作家奥田小由女さん(86)=東京都=は悼んだ。奥田さんも文化勲章受章者で、2022年に同市の奥田元宋・小由女美術館であった受章記念展には今井さんも駆けつけた。「同じ工芸の分野で偉大な先輩だった」と敬意を込めた。

 約20年間にわたり親交を結んだ広島県立美術館の福田浩子学芸課長は先月下旬に京都で会ったばかりという。「収縮率の異なる粘土を焼き入れる面象嵌は非常に難度が高く、科学者の側面がある作家だった」と振り返る。「最近は磁器を使った象嵌にも取り組み、最後まで挑戦を続けた」と惜しんだ。

 21年秋に「今井政之展」を開いた東広島市立美術館の松田弘館長(67)は「巨匠にもかかわらず、その作風は人の心にすっと入っていくおおらかさがあった」と評する。節目ごとに展覧会を開いてきた福屋の大下洋嗣社長(55)は「先生を中心に人の輪ができる。皆がファンになる作家だった」としのんだ。

 長男で陶芸家の眞正(まきまさ)さん(61)は「竹原を最後に訪れたのは1月。もう一度、行かせてやりたかった。『作は人なり』の教えを引き継ぎたい」と決意を込めた。

 広島県の湯崎英彦知事は「革新的で優れた作品を発表し、国内外で高い評価を得てこられた。県民にとって誇りであり、大きな悲しみ」と哀悼を表した。

(2023年3月7日朝刊掲載)

今井政之さん死去 陶芸家 面象嵌を確立 92歳

今井政之さん死去 創作拠点の竹原 悲しみ 「地域の芸術振興に寄与」

年別アーカイブ