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【解説】姿勢一転 背景見えず 山口知事 重い説明責任

 上関原発(山口県上関町)の公有水面埋め立て免許の延長を巡り山口県の村岡嗣政知事は3日、中国電力の延長申請に許可を出した。過去7度にわたり補足説明を求めてきた姿勢から一転。知事は中電側の説明が判断をする上での十分な要件を整えたとして「許可せざるを得ない」とする。だが、今後も中電がすぐに工事着手できるわけではなく、免許延長を繰り返す可能性は高い。(佐藤正明)

 これまで県が可否判断を先送りしてきた根拠は「国のエネルギー政策における上関原発の位置付けが変わらないと言えるだけの説明が尽くされていない」(村岡知事)だった。これに対し、中電は6月22日に提出した7度目の補足説明の中で、経済産業省資源エネルギー庁の課長名で「上関原発は重要電源開発地点指定として引き続き有効」とする見解を新たに加えた。

 県は従前から2008年10月に中電へ出した免許を「無効ではなく有効」としており、要件が満たされたとして延長許可の方向で調整に入ったという。

 一方で、村岡知事は条件を付ける方向を示し、「原発本体の着工時期の見通しがつくまでは埋め立て工事を施工しないこと」との要請が加わった。許可書と要請文を弘中勝久副知事から受け取った中電の迫谷章副社長は「適切に対応したい」としながら「上関原発は島根2、3号機の後」と述べるなど、建設計画の行方は見通せない状況だ。

 福島第1原発事故後の工事中断後、12年10月から延長申請が続き、免許交付からも約8年が経過する現時点での県の延長許可に対しては、原発を巡る社会情勢や新たな安全基準、環境保全の観点から仕切り直すべきとの専門家の指摘もある。予定地周辺では原発の賛否を巡る住民の対立をあおりかねないとの懸念も出ている。知事には方針転換についての丁寧な説明が求められる。

≪埋め立て免許を巡る主な経緯≫※肩書は当時

2008年10月20日 原発計画に反対する山口県上関町の祝島の漁業             者たちが免許差し止め(後に免許取り消しに変             更)を求めて山口地裁に提訴
     10月22日 山口県の二井関成知事が中国電力に免許を交付
  11年 3月15日 福島第1原発事故を受けて埋め立て工事が中断
  12年 6月25日 二井知事が免許延長を認めない考えを表明
      7月29日 山本繁太郎知事が初当選。上関原発計画につい             て二井知事の方針を踏襲すると表明
     10月 5日 中電が免許延長を申請
     10月23日 県が中電に延長申請の最初の補足説明を要求。             13年1月30日まで計4回、繰り返す
  13年 3月 4日 山本知事が県議会代表質問で、可否判断を1年             程度先送りすると表明。不許可方針から転換
      3月19日 5度目の補足説明を中電に要求。回答期限を1             4年4月11日に設定
  14年 2月25日 村岡嗣政知事が就任
      4月14日 5度目の補足説明の回答文書が中電から県に届く
      5月14日 村岡知事が6度目の補足説明を中電に要求し、             可否判断を先送り。回答期限を15年5月15             日に設定
  15年 5月18日 6度目の補足説明の回答文書が中電から県に届             く。中電が2年8カ月の免許延長を県に申請
      6月22日 村岡知事が7度目の補足説明を中電に要求し、             可否判断を先送り。回答期限を16年6月22             日に設定
  16年 6月22日 中電がさらに1年1カ月の免許延長を県に申             請。
      6月23日 7度目の補足説明の回答文書が中電から県に届             く
      7月28日 埋め立て免許取り消し請求訴訟で、山口地裁の             裁判官3人が現地を初めて視察
      8月 3日 村岡知事が、中電が申請していた埋め立て免許             の19年7月6日までの延長を許可。また、発             電所本体の着工時期の見通しがつくまで埋め立             て工事をしないよう要請


上関原発
 中国電力が山口県上関町長島に計画する改良沸騰水型軽水炉。1、2号機の出力は各137万3千キロワット。埋め立て海域は約14万平方メートルで、県は2008年10月に免許を交付。中電は1年後に着工したが、福島第1原発事故の影響で中断した。免許期限切れ直前の12年10月、3年延長を県に申請。15年5月に2年8カ月、ことし6月には1年1カ月、さらに延長するよう求めていた。

(2016年8月4日朝刊掲載)

埋め立て免許延長 上関原発 山口県が許可

工事再開は不透明 上関原発埋め立て 山口県の許可 条件付き

上関原発埋め立て 山口県が許可 一問一答

関係者の動向見守る 世耕経産相 上関原発埋め立て

社会情勢の変化踏まえて 広島大大学院教授 横山信二氏に聞く 上関原発埋め立て免許

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