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連載・特集

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち⑤

 映画「舟を編む」(2013年)で日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞した広島市出身の作曲家・渡邊崇さん。こどもの頃から雨の音を聞くのが好きで「何時間でも聞いていられる」という。安古市高でバンドを始め、大阪の大学卒業後も大工をしながら音楽活動を続けていた。バンド仲間の死を経験し、ツアーで一緒になったカナダ人がくれたクラシックのCDを聴いて、「自分のためではなく、みんなのために音楽を奏でたい」と考えるように。ギター、ボーカルと、どれもうまくいかず、ふと立ち寄った本屋で作曲の本を読み、小さなキーボードで曲を作り始めた。

 28歳で大阪音楽大短期大学部に進み、当時広島市立大学の学生だったイラストレーター井上朝美さんからアニメーション作品の音楽を依頼され、劇伴音楽の世界を知った。若い映像作家たちから依頼が来るようになり、何度もダメ出しを受けても必死に書き続けた。昨年秋に公開された話題作「浅田家!」の音楽も担当。今では日本の映画音楽には無くてはならない存在となった。

 14年1月、井上さんを通じて渡邊さんの活躍を知り、ピアノトリオの作曲を依頼した。「時間がなかなか取れないが、広島の両親が喜ぶと思う。こういう形で親孝行できたら」と返事があった。聞く人が前向きな気持ちになりますように―との願いを込めた「奏でる」と題した新曲が完成した。9月、初演後の西区民文化センターのロビーには両親と笑顔の渡邊さんがいた。雨音を聞くと、この曲のメロディーを思い出す。(広島市東区民文化センター館長=広島市)

(2021年4月14日朝刊掲載)

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