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連載・特集

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち⑦

 木嶋真優さんは9歳の時、広島で初めてオーケストラと共演した。人気バイオリニストとなった今でも、彼女にとって広島は音楽家として歩み始めた思い出の街だ。

 2014年11月、木嶋さんは広島市西区民文化センターでリサイタルを開いた。その5カ月前、私は作曲家の横山菁児さんに木嶋さんのCDを渡した。横山さんは病魔に侵されていたが、木嶋さんのバイオリンの音色に心が動かされ、予定していた手術を遅らせることを決意。10分を超える「The FLOW 刻(とき)の流れ」を書き下ろした。人生をテーマとした曲は、若き才能によって華麗に、ときに激しく奏でられた。

 16年9月、木嶋さんから上海アイザック・スターン国際バイオリン・コンクールに優勝したという一報が入り、横山さんに報告した。「こんなすごい奏者が僕の曲を弾いてくれたなんて、作曲家冥利(みょうり)に尽きる」と喜んだ。翌年の7月8日、横山さんは82歳で亡くなった。

 木嶋さんは昨年、東区民文化センターで開いたリサイタルで横山さんの2作品を披露した。遺作となった平和を祈念する「そして 祈り」、劇伴の代表作であるアニメ「聖闘士星矢(セイントセイヤ)」から「アテナ転生」。

 ステージでは横山さんへの感謝と、「亡くなられた今も、音楽を通して心が触れ合える」との言葉があった。情感あふれる演奏は、天にも届くようだった。私は演奏を聞き終え、横山さんがブラボーと高く手を組み上げてほほ笑む姿が脳裏に浮かび、涙がこらえられなかった。(広島市東区民文化センター館長=広島市)

(2021年4月16日朝刊掲載)

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち①

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち②

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