×

連載・特集

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち④

 被爆70年の2015年8月、広島市中区のJMSアステールプラザで「ヒロシマ平和祈念コンサート」があり、中村暢之さんが作曲した「ひろしまへ」をテノール歌手の錦織健さんが歌った。この日、ソプラノ歌手の佐々川広子さんによって初演されたのが那須正幹さん作詞、冬木透さん作曲「ふるさとの詩」だった。

 元々バイオリンのための作曲を依頼していた冬木さんから「歌なら書く」と言われ、ヒロシマにまつわる詞が書ける人を探していた。ある日、広島市西区己斐地区に、地元がモデルの人気児童文学シリーズ「ズッコケ三人組」の石碑が設置された記事を読み、作者で被爆者の那須正幹さんを知った。さっそく石碑を建てた住民グループの方から連絡先を聞き、防府市のご自宅へ会いに行った。コンサートの趣旨を説明すると「作詞の経験はないが、書きましょう」と引き受けてもらえた。しかし、そこからが大変だった。

 冬木さんは大人向けの曲を構想されていたが、那須さんは「子どもが歌える歌に」との意向だった。二人の大先生の間を取り持ちながらの交渉は胃が痛んだ。完成した「ふるさとの詩」はお好み焼き、路面電車、キョウチクトウの花、折り鶴の少女(原爆の子の像)などヒロシマの風景が織り込まれ、大人から子どもまでが愛唱できる歌となった。

 その曲が初披露されたコンサート当日。客席には笑顔の那須さんがいた。歌詞の終わりは「くずれぬ平和を願う街 ここは世界の故郷 心の故郷」と締めくくられている。(広島市東区民文化センター館長=広島市)

(2021年4月13日朝刊掲載)

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち①

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち②

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち③

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち⑤

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち⑥

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち⑦

緑地帯 山本真治 広島ゆかりの作曲家たち⑧

年別アーカイブ