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連載・特集

緑地帯 廣谷明人 奇跡の被爆バイオリン①

 広島女学院歴史資料館(広島市東区)に一丁の被爆バイオリンがある。元の持ち主はセルゲイ・パルチコフ(1893~1969年)。広島女学院で教えたロシア出身の元音楽教師であり、牛田(現東区)で被爆し、後に渡米した。バイオリンは娘のカレリアが1986年に来広し寄贈したものだ。

 私は2018年、市民グループ「HOPEプロジェクト」に参加するようになった。広島で被爆死した女子学生、河本明子さんの遺品である被爆ピアノを保管するグループだ。翌年にHOPEは非政府組織(NGO)ピースボート主催の船旅に協力する形で、「明子さんのピアノ」と「パルチコフさんのバイオリン」の船上コンサートを開くことになった。私は楽器紹介の資料を準備するため、パルチコフ一家の資料を集めることにした。

 広島女学院の資料、新聞記事、白系ロシア人被爆者の研究文献、バイオリンを修復した石井高氏の著作など、情報はどれも断片的だった。しかしその後、インターネットの英語サイトでカレリアの被爆証言、セルゲイの長男ニコライやその娘キムが書いた記録などを探し出すことができた。調べれば調べるほど、一家の波乱の歴史に驚かされ、のめりこんでいった。

 昨年、カレリアの息子、トニー・ドレイゴ氏が一家の歴史をつづった「Surviving Hiroshima」を出版した。その本とこれまでの調査を基に、一家の歴史をたどってみよう。(ひろたに・あきと 元英語教諭=広島市)

(2021年8月14日朝刊掲載)

緑地帯 廣谷明人 奇跡の被爆バイオリン②

緑地帯 廣谷明人 奇跡の被爆バイオリン③

緑地帯 廣谷明人 奇跡の被爆バイオリン④

緑地帯 廣谷明人 奇跡の被爆バイオリン⑤

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