×

ニュース

孤立の露 「合意」覆す NPT会議決裂 保有国の消極姿勢も露呈

 ロシアがウクライナに侵攻するさなかに開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議は26日、「失敗」に終わった。2回続けての決裂回避へ、加盟国・地域は最終文書案で譲歩を重ねたが、ロシアとの対立を解消できなかった。核の脅威を拭えず、核軍縮の停滞は許されない。(ニューヨーク発 小林可奈)

 「残念ながら、たった一つの国が異議を唱えた」。米ニューヨークの国連本部の議場で予定より4時間半近く遅れて始まった再検討会議を締めくくる全体会合で、スラウビネン議長(アルゼンチン)が厳しい表情で最終文書案を巡る交渉結果を伝えた。開始前、各国の代表団が演壇前で記念撮影をするなど和やかな雰囲気だったのが一転、重苦しい空気が議場を包んだ。

 複数の外交筋によると、最終文書案に対しては大半の加盟国が賛意を示し、26日午前の時点は楽観ムードが漂っていた。25日の改定で、ロシアが猛反発していたとみられるウクライナ南部ザポロジエ原発の管理をウクライナに戻すよう促す項目からロシアの名指しを削除。議長側は合意への感触をつかんでいたとみる向きもあった。

 だが土壇場の昼ごろ、ロシアが議長側に「管理下にあるウクライナの核施設について、重要な変更をしなければ賛成できない」との立場を伝達。「天から地に落ちた」(外交筋)。議長団の交渉も実らなかった。

 決裂が決まった全体会合では、4週間の議論を蒸し返すように、各国の代表が持論をぶった。ロシアは「各国の立場を反映し、バランスを取らなければいけないが、残念ながら、そうなっていない」と語気を強めた。

 これに対し、米国は「合意に至っていない理由はロシアにある。ロシアが求めた変更はウクライナを消そうとする企てを覆い隠そうとする内容だった」とロシアを非難した。ウクライナも「ロシアの孤立は鮮明になった」と糾弾。一方で自国への各国の支援に感謝の気持ちを伝えると、連帯を示すように拍手が湧き、国際社会の対立を象徴した。

 約190カ国・地域の合意を、2月のウクライナ侵攻を受けた想定外の当座の問題でロシアが妨げた形だ。ただ、最終文書案を巡る交渉では、核軍縮に後ろ向きな核兵器保有国の姿勢が露呈した。

 核兵器を全面的に違法化する核兵器禁止条約は発効など事実関係の記載のみにおしとどめた。核軍縮の数値目標や期限の設定など非保有国の訴えにも応えていなかった。2015年の前回会議でも、中東問題を理由に保有国の米国が最終文書案に反対し、決裂した経緯がある。

 この日の全体会合で、禁止条約の賛同国を代表して発言したメキシコは「核兵器がもたらす破滅的なリスクに直面する中、人類の生存のため私たちは決意を持って前進する」と宣言した。核兵器廃絶に向けた国際交渉は来年、次回再検討会議に向けた第1回準備委員会と、禁止条約の第2回締約国会議が開かれる。

(2022年8月28日朝刊掲載)

NPT会議 再び決裂 露、ウクライナ原発記述に反発 最終文書 採択できず

NPT会議 「責めは露に」 岸田首相

[NPT再検討会議2022] 決裂 落胆と憤り 被爆者「人類が不幸になる」 若者「廃絶へ同世代連携」

年別アーカイブ