×

社説・コラム

天風録 『大江健三郎さん』

 生前、広島についてきちんと書いた井上ひさしさんは偉大です―。13年前の本紙インタビューで没後間もない作家について、大江健三郎さんは語っていた。一方、自分は「核廃絶にリアルな役割を果たさなかった者として死んでいくんだ」と▲自責の念も募らせていた。「広島が中心の作品を書き終えられなかった」。だが「ヒロシマ・ノート」刊行など、大江さんの言動は世界を反核へ突き動かしてきた。きのう訃報が届いた。被爆地は大きな存在を失った▲「ヒロシマ・ノート」のプロローグにこんな記述がある。「僕は広島の、まさに広島の人間らしい人々の生き方と思想とに深い印象をうけていた」。60年前に触れた、政治的な対立で揺れる原水爆禁止世界大会と被爆者の思い。行動する作家の原点に違いない▲「沖縄ノート」を著し、米軍基地の撤去も求めた。さらに護憲運動の先頭に立つ。井上さんとともに呼びかけ人となり、「九条の会」結成を導いた。反核、護憲、脱原発のために「リアルな役割」を果たし続けてきた▲ノーベル文学賞を受賞した者の責務と感じていたのだろう。被爆地に期待する言葉も残している。「広島発の新たな国民運動が要ります」

(2023年3月14日朝刊掲載)

大江健三郎さんを悼む 被爆地の人々に導かれ

大江健三郎さん死去 ヒロシマも悼む ノーベル文学賞講演英訳の友人 山内久明・東京大名誉教授(広島市出身)

大江健三郎さん死去 寄り添い 願い発信/弱き者へ愛情

大江健三郎さん 「ヒロシマ」を語る

年別アーカイブ