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連載・特集

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて②

 私は1981年に熊本県菊鹿町(現山鹿市)の山村に生まれた。実家は兼業農家で祖父母は田畑を耕し生計を立ててきた。春のタケノコ掘り、初夏の茶摘みには親類同士が手伝いに行き来した。小学生から高校生にかけてタケノコを掘って小遣いを稼ぎ、幼なじみの友人たちと野山を駆け巡った。その情景が脳裏に焼き付いている。

 竹林の中に開けた場所があり、「オバネ」と呼んでいた。後に「オバネ」とは山の尾根や峠を示す方言だと知った。今は道路拡張でなくなったが、久しぶりに里帰りした叔父が「オバネがなくなっとる」と嘆いた。「オバネ」はどの世代の子供にも親しまれた遊び場だったのだ。思い出になる場があったことを幸せに感じる。

 地域のつながりも深くモミスリを共同で行っていた。稲作に使う機械も共同使用した。民俗的には「結(ユイ)」といって重要な調査事項だ。しかし私にはそれは当たり前だった。年中行事も多く、祖父や父が早朝から共有林の草刈り、祭りの準備に行くのを見て育った。それは今も続いている。

 ムラの運動会には、皆が弁当を持って集まり、秋晴れの一日を楽しんだ。稲刈りに忙しい最中でも、そんな憩いの時間があった。

 後に、こんな故郷での少年期の出来事を、宮本常一門下の先生に話すと「君は私と同い年のような経験をしているね」といって面白がってくださった。田舎者として、時には嘲笑されるような経験が、民俗学のなかでは得難い生活経験として大事にされ、その感覚が意味を持ってくることを知った。(宮本常一記念館学芸員=山口県周防大島町)

(2021年5月1日朝刊掲載)

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