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連載・特集

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて③

 祖父母の戦争体験、戦後の生活経験を聞いて育ち、父が歴史小説を愛読していたこともあり、私は広島大学で日本史を専攻した。

 指導教官の勝部眞人先生は父と同い年で、勝手気ままな学生に自由に学びの場を提供してくださり、青くさい意見も受け止めてくれた。近現代史の演習で活発な議論ができたのは良い経験だった。

 大学院に進学するときに、先輩に広島大学文書館のアルバイトに誘ってもらった。設立当時の文書館は、館長の小池聖一先生をはじめ、菅真城先生、小宮山道夫先生がいて資料の扱い方を教えてくださった。小池先生が、「書架にある文書はいつも語り合っている。その声を聞けるようにならなければいけない」と諭してくださったのは今も心に残っている。

 開館後、原爆報道に携わった中国新聞の金井利博や大牟田稔たちの資料が寄贈され、平和学術文庫が設置された。私はその資料のリスト作りに従事した。私が担当した金井利博は中国新聞の論説主幹で、大江健三郎の「ヒロシマノート」にも登場し、「核権力」などの著作がある。中国山地の製鉄業を題材にした「鉄のロマンス」を執筆するなど民俗学にも深い関心を寄せて、宮本常一とも親交があった。

 平和学術文庫の資料を整理する過程で、宮本常一や山代巴、梶山季之をはじめ広島ゆかりの作家の著作を読む機会に恵まれた。そして資料にはそれを作った人、守り伝えた人たちの思いがこもっていることを感じることができた。このアルバイトが今につながっている。(宮本常一記念館学芸員=山口県周防大島町)

(2021年5月4日朝刊掲載)

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて①

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて②

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて④

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑤

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑥

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑦

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑧

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