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連載・特集

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑥

 2009年3月末に慌ただしく周防大島へと向かった。周防大島では前任の高崎裕太さんの下宿先をそのまま借りた。高崎さんは残務処理に忙しい中で引き継ぎをしてくれ、宮本常一記念館に関わる地域の方、宮本常一門下の先生方を教えてくれた。宮本常一資料は、彼を慕う人の思いが込められていることがよくわかった。

 記念館での初めての仕事は宮本常一が芸予地域で撮影した写真の企画展示だった。宮本常一門下の森本孝さんが1週間、付きっきりで指導してくれた。森本さんは、宮本常一が主宰した日本観光文化研究所に学んだ人で、その指導は的確だった。写真の選び方と情報の読み取り方、組み写真の手法、解説文のつけ方、宮本の視点を伝える表現―。写真資料を扱ったことがない私は宮本写真をみる基礎を教えてもらった。

 この時の企画展示「海辺の暮らし―芸予の海を見つめて」のパネルは、翌年に「瀬戸内巡回展2010」として、撮影地の愛媛県上島町、広島県三原市、大崎上島町を巡回した。森本さんは三原で、また日本離島センターの大矢内生気さんは上島町で佐田尾信作さんと講演され、宮本門下の印南敏秀先生は大崎上島町で里海をテーマにしたシンポジウムを開催された。

 このような宮本写真の撮影地での展示に記念館は現在も協力している。お年寄りには懐かしいし、暮らしの変遷を聞く資料にもなって地域文化の再発見につながっている。また一緒に企画展をした地元の人たちとの縁が今日まで続いていることが何よりもうれしい。(宮本常一記念館学芸員=山口県周防大島町)

(2021年5月8日朝刊掲載)

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて①

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて②

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて③

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて④

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑤

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑦

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑧

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