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連載・特集

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑧

 周防大島に来て、伝統的な生活経験をもった人、そういう暮らしに関心のある人と多く知り合った。そこで記念館に地域交流員というボランティアを設けた。毎月の発表会やフィールドワークを行っている。石風呂入浴体験や子供向けの体験学習、芋掘りなどの農業体験もボランティアと一緒に企画している。島の内外の人が参加し、世代間の交流にもなっている。

 だが、新型コロナウイルスの流行で、この1年は多くの事業を中止した。そこで地域振興を担う集落支援員の榮大吾さんの協力を得て、「宮本常一チャンネル」という動画配信を開始した。民具資料や研究成果を紹介したり、地元の方に集落を紹介してもらったりと、生活文化の魅力を伝える動画を100本近く配信している。特に周防大島町は宮本常一の指導で収集した民具が数万点に上り、このうち「久賀の諸職用具」「周防大島東部の生産用具」の2件は国指定文化財になっている。

 膨大な資料の活用の可能性は無限に広がる。例えばハワイ移民の歴史も島の文化的な魅力だろう。周防大島は明治以降、ハワイ移民を多く輩出し、彼らが持ち帰った資料も多数ある。本年度は国立歴史民俗博物館、国立国語研究所との共催で、町国際交流推進員の西田純子さんと「周防大島とハワイ―移民たちの足跡」の特別展示を企画した。まだまだ掘り起こしていくべき文化の層がありそうだ。

 宮本常一が愛した故郷の風土と文化、その中に浸りながら日本人の暮らしを見つめる喜びは10年たった現在でも薄れることはない。(宮本常一記念館学芸員=山口県周防大島町)=おわり

(2021年5月12日朝刊掲載)

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて①

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて②

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて③

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて④

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑤

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑥

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑦

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