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連載・特集

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて④

 広島大学文書館でいろいろな資料に携わることで、視野が拓(ひら)かれていった。そんな折、友人たちが、言語学研究室の高永茂先生に誘われて、周防大島に宮本常一の蔵書の整理に行っている話を聞いた。

 早速、高永先生の調査に同行した。高永先生は他専攻の私にも気さくに接し、言語調査での地域の人との接し方、関心を持たれていた医療コミュニケーションの話をしてくださった。その後、河西英通先生もこのプロジェクトに参加され、宮本常一を題材に講演会などの企画もできた。先生方のおおらかさがあったから、留学生も含めていろいろな学生がその後もボランティアの蔵書整理に参加した。

 さて、はじめて訪れた宮本常一記念館では、愛用品や直筆資料を通じて宮本常一の人物像に触れることができた。そして宮本の蔵書を開くと、時には彼の書き込みがあり、人文学の巨人の知の形成過程の一端を見ることができた。

 整理作業は配架場所を確認してリスト化していく地味な作業だ。しかし、リストがなければ全体像が把握できないし、来館者が閲覧することもできない。資料館の基礎的な作業だが、当時の記念館には割ける人員がなく、高永先生たちがサポートしていたのだった。

 仕事は地味だが、書庫で本に囲まれながらの整理は楽しく、いろんな研究や地域活動につながるという意義を感じていた。だが、周防大島で何より嬉(うれ)しかったのは、宿で出される新鮮な魚介類だった。その後も周防大島を訪ねたのは、島の空気をすって魚を食べることが目的にあったからだと思う。(宮本常一記念館学芸員=山口県周防大島町)

(2021年5月5日朝刊掲載)

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて①

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて②

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて③

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑤

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑥

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑦

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑧

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