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連載・特集

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑤

 宮本常一記念館をはじめて訪れた時に思いがけない出会いがあった。中国新聞の佐田尾信作さんが宮本常一生誕100周年の企画で高永茂先生の蔵書整理を取材された。先生は、学生が主体だからと言って我々が写真に納まるようにされた。数日後に大きく紙面で取り上げられ、地道な活動を理解してくださる方がいることをうれしく思った。

 佐田尾さんは、宮本常一の著作を読む会にも誘ってくださった。その読書会は、市民有志が感じたことを自由に述べ、それぞれの読みを尊重する会だった。大学でのロジカルな議論とは一線を画していて、それが新鮮だった。懇親会では、佐田尾さんが宮本常一の足跡を訪ねた取材の話や、著作の面白みについて語ってくださった。大学院に通いながら社会との接点を持てたことは大きかった。

 私は何か体系的な理論を追究する学会よりも、いろんな職業の人が学びあう場にいる方が居心地がよかった。侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を戦わせる勇気もなく、筋が通っていればそういう考えもあるのか、と納得してしまう。そして、広島大学の初代学長・森戸辰男の社会教育推進の思想にも影響を受け、博物館の仕事ができればと思っていた。

 そんな時、指導教官の勝部眞人先生に呼び出された。周防大島で学芸員を募集している、興味があれば高永先生を訪ねるように促してくださった。高永先生は、やってきたことをそのまま話せばいいからと言って面接に送り出してくださった。そして、宮本常一記念館の学芸員になった。(宮本常一記念館学芸員=山口県周防大島町)

(2021年5月7日朝刊掲載)

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて①

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて②

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて③

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて④

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑥

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑦

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