×

連載・特集

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑦

 宮本常一記念館では、宮本が遺(のこ)した資料を活用した企画を行っている。展示では、毎回テーマにあわせて昭和期の庶民の姿を記録した写真はもちろんのこと、全国各地を旅して収集した聞き書きのノートなども紹介している。

 最近の展示では、「宮本常一、車窓からの風景」と題して山陽線沿線などの写真を紹介した。この展示は同僚の徳毛敦洋さんが主担当になって、呉市入船山記念館、広島県立歴史博物館からも資料を借用した。鉄道模型専門店「柳井レイルモデル」にも協力をいただき、宮本が乗車した列車模型も展示して鉄道ファンなど、これまでにない方々にも観覧いただいた。私自身が考えてもみなかった企画から、宮本常一資料から広がる世界の奥深さを教えてもらった。

 また宮本が全国各地の調査地で記録した聞き書きの調査ノートを「宮本常一農漁村採訪録」として刊行している。「宮本常一著作集」の編者でもある田村善次郎先生に監修・編集を協力いただいて、開館から現在までに23冊を発行している。瀬戸内海の漁村、山口県の周南諸島、萩・見島、佐渡島、下北半島などがあり、宮本が全国各地で採集したノートには、幾代にもわたって紡がれた暮らしの営みが記されている。

 宮本のノートをめくると、当たり前の暮らしを丁寧に記録する姿勢が読み取れ、本当に頭の下がる思いがした。誰もが「当たり前」として看過するところに大切なことが潜んでいる、日常の暮らしに問いを立てよ、という民俗学の神髄に触れたような気がする。(宮本常一記念館学芸員=山口県周防大島町)

(2021年5月11日朝刊掲載)

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて①

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて②

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて③

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて④

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑤

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑥

緑地帯 高木泰伸 宮本民俗学に魅せられて⑧

年別アーカイブ