「諦めない」被爆地けん引 坪井直さん死去 「命かけ体験継承」 広島の関係者ら惜しむ
21年10月28日
自らの被爆体験から核兵器廃絶を訴え続け、被爆者運動を引っ張った広島県被団協理事長の坪井直さんの訃報が届いた27日、運動を共にしてきた被爆者やゆかりの人たちからは惜別の声が上がった。
「居てくれるだけで存在感があった。大木が倒れたような気持ちだ」。県被団協の箕牧(みまき)智之理事長代行(79)は約15年にわたり、坪井さんの姿を間近に見てきた。近年は高齢のため行事には参加できず、箕牧さんが代わりに対外的な業務を担ってきた。
「ネバーギブアップ」を合言葉に、核兵器廃絶と平和を訴え続けた坪井さん。「温厚な中にも執念があった」と箕牧さんは振り返る。日本政府に対しても、廃絶に向けた「具体的な行動が乏しい」と不満をこぼしていたという。
被爆者の訴えに共感が高まり、今年1月に発効した核兵器禁止条約に日本政府は背を向ける。箕牧さんは「政府を条約の批准へと動かすのが残された私たちの仕事。坪井さんならどうするかと考え、粘り強く訴えていく」と継承を誓った。
もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(77)は、両被団協を含む被爆者7団体で取り組んだ「ヒバクシャ国際署名」が印象に残る。二つの県被団協へと分裂した経緯がある中で「一緒にやりましょうと一致できた時、核兵器廃絶という共通の目標に向け、心が通じたと思えた」と振り返る。
日本被団協の代表委員としても、国内外で被爆の実態を訴える活動を重ねた。2010年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で米ニューヨークに同行した日本被団協の児玉三智子事務局次長(83)は「あなたたち若いもんが被爆の実態を後世に伝えて」との坪井さんの激励が、証言活動の支えになっている。「強力なリーダーシップのある人だった。願いを継ぎ、若い人に核兵器の恐ろしさを伝えていく」と力を込めた。
元教員でもあり、若い世代との対話を大切にした。原爆資料館長も務めた県被団協の前田耕一郎事務局長(72)は、中区の事務所を飛び込みで訪れた若者や外国人を快く受け入れ、被爆体験を語る坪井さんの姿を幾度も目にした。「原爆はいかん、二度と同じ被害を起こしてはいかんとの思いから、体験を伝えることに命をかけていた」
広島大4年の作原愛理さん(22)=東広島市=も、坪井さんとの対話を胸に刻む一人だ。盈進高(福山市)に在学中、部活動で坪井さんの半生を冊子にまとめる中で「涙を流しながら苦しい経験を話してくれた姿が忘れられない」。被爆者運動で見せる力強い姿とは異なる表情に、原爆のむごさを痛感した。「二度と誰にも同じ思いをさせたくないとの被爆者の思いをつなぎたい」と話した。
(2021年10月28日朝刊掲載)
評伝 坪井直さん 非核を願い世界駆ける 未来へバトンつなぐ
首相「思い胸に前進む」 親交あった議員ら悼む声
坪井直さん死去 広島で被爆 核廃絶へ力 96歳 日本被団協代表委員
核廃絶へ熱意受け継ぐ 坪井さん死去 県内被爆者らしのぶ
運動旗振り役 訃報続く 広島・長崎 活動継承が課題
「居てくれるだけで存在感があった。大木が倒れたような気持ちだ」。県被団協の箕牧(みまき)智之理事長代行(79)は約15年にわたり、坪井さんの姿を間近に見てきた。近年は高齢のため行事には参加できず、箕牧さんが代わりに対外的な業務を担ってきた。
「ネバーギブアップ」を合言葉に、核兵器廃絶と平和を訴え続けた坪井さん。「温厚な中にも執念があった」と箕牧さんは振り返る。日本政府に対しても、廃絶に向けた「具体的な行動が乏しい」と不満をこぼしていたという。
被爆者の訴えに共感が高まり、今年1月に発効した核兵器禁止条約に日本政府は背を向ける。箕牧さんは「政府を条約の批准へと動かすのが残された私たちの仕事。坪井さんならどうするかと考え、粘り強く訴えていく」と継承を誓った。
もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(77)は、両被団協を含む被爆者7団体で取り組んだ「ヒバクシャ国際署名」が印象に残る。二つの県被団協へと分裂した経緯がある中で「一緒にやりましょうと一致できた時、核兵器廃絶という共通の目標に向け、心が通じたと思えた」と振り返る。
日本被団協の代表委員としても、国内外で被爆の実態を訴える活動を重ねた。2010年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で米ニューヨークに同行した日本被団協の児玉三智子事務局次長(83)は「あなたたち若いもんが被爆の実態を後世に伝えて」との坪井さんの激励が、証言活動の支えになっている。「強力なリーダーシップのある人だった。願いを継ぎ、若い人に核兵器の恐ろしさを伝えていく」と力を込めた。
元教員でもあり、若い世代との対話を大切にした。原爆資料館長も務めた県被団協の前田耕一郎事務局長(72)は、中区の事務所を飛び込みで訪れた若者や外国人を快く受け入れ、被爆体験を語る坪井さんの姿を幾度も目にした。「原爆はいかん、二度と同じ被害を起こしてはいかんとの思いから、体験を伝えることに命をかけていた」
広島大4年の作原愛理さん(22)=東広島市=も、坪井さんとの対話を胸に刻む一人だ。盈進高(福山市)に在学中、部活動で坪井さんの半生を冊子にまとめる中で「涙を流しながら苦しい経験を話してくれた姿が忘れられない」。被爆者運動で見せる力強い姿とは異なる表情に、原爆のむごさを痛感した。「二度と誰にも同じ思いをさせたくないとの被爆者の思いをつなぎたい」と話した。
(2021年10月28日朝刊掲載)
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