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社説・コラム

この一歩すら踏み出せぬのか ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 核兵器禁止条約の締約国が60カ国・地域に上り、核抑止力を否定する国際世論がますます大きなうねりとなっている。一方で世界最強の核兵器保有国は、核軍縮につながる宣言政策をまた見送った。同時並行で進む世界の厳しい現実である。米バイデン政権は「核体制の見直し(NPR)」に「唯一の目的」宣言を盛り込むのを断念したと報じられた。

 核兵器廃絶に一歩でも近づくには、核兵器の数だけでなく、使用の想定を狭める「役割限定」が欠かせない。核超大国が「唯一の目的」宣言すらできない限り、被爆地の悲願達成は困難なままだろう。

 同盟国が難色を示したという。驚きはない。特にロシアがウクライナに軍事侵攻し、プーチン大統領は非核保有国に対して、大量破壊兵器の先制使用という究極の威嚇に出た。北朝鮮のミサイル開発は一気に進展。こちらから核を多少なりとも引っ込める意思だと受け取られては困ると「核の傘」の下の国が主張することは十分考えられる。

 ただ、今私たちが痛感しているのは、核兵器がいかに世界を危機に陥れるのかということである。悪循環を断ち切らねば、地球最後の日までの時間を示した米科学誌の終末時計が示す残り「100秒」と隣り合わせであり続ける。

 核兵器の使用を抑止してきたのは「この兵器が存在する限り、悲惨は繰り返される」と無言で訴えてきた原爆犠牲者の存在と、体験を懸命に語ってきた被爆者の姿にほかならない。「決して繰り返させない」と心の奥底から共有し、何らかの行動で示さない限り死者は浮かばれない。

 原爆慰霊碑に26日、献花したエマニュエル駐日米大使は被爆地を訪れる意義をどう感じ取っただろうか。同行した岸田文雄首相が米国の「唯一の目的」宣言に難色を示した被爆国トップであるということも私たちは直視しなければならない。

(2022年3月27日朝刊掲載)

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