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社説・コラム

社説 ウィーン宣言 核廃絶へ日本も行動を

 核なき世界の実現こそが、核が二度と使われないことを保証する唯一の道である―。核兵器禁止条約の締約国が開いた初の会議は、核廃絶への不退転の決意を示す「ウィーン宣言」を採択して閉幕した。

 ウクライナを侵略したロシアが核による脅しを繰り返す今、改めて国際社会が目指すべき規範を明確にした意義は大きい。核抑止論は理性のない独裁者がいるだけで、もろくも崩れ去る。私たちはその現実を目の当たりにしている。

 それでもなお核兵器で安全保障を強化しようとする論理が幅を利かせ、米国による広島、長崎への原爆投下から77年で核使用のリスクは最大になった。にもかかわらず、日本はオブザーバー参加をせず、核の惨禍を繰り返させぬよう努力する戦争被爆国の責任を放棄した。

 広島、長崎の被爆者は一刻も早い行動を訴えた。現地入りした広島ゆかりの若者が、交流サイト(SNS)で各国の主張や会議の論点を発信し、関連イベントで各国の同世代やリーダーと活発に交流する姿は頼もしかった。核廃絶の機運を高める未来の原動力になるだろう。

 ウィーン宣言は、米国、ロシアをはじめ9カ国が依然、計約1万3千発の核弾頭を保有すると警鐘を鳴らした。加えてロシアのプーチン大統領の言動を念頭に、核兵器使用の脅しに危機感を強めているとした。宣言通りに、核廃絶の具体的な行動をすぐ始めるべき局面であろう。

 それだけに核兵器保有国に対し、禁止条約に加盟する際に10年以内の核全廃を求めると決めた点に意義を見いだしたい。曲がりなりにも東西冷戦後、米ロがそろって削減した過去を踏まえ、専門家は実現可能とする。

 締約国の方針を示す行動計画には「核兵器の影響を受けながらも未加盟の国と協力する」と盛り込んだ。これは日本に核廃絶への協力を要請する強いメッセージであろう。

 日本の不参加は非保有国や市民団体の失望を招き、「保有国との橋渡しの役目が果たせるはずがない」と批判を浴びた。禁止条約で定めた核実験などによる「ヒバクシャ」の支援に向け、経験と知見に寄せられる期待も大きいはずだ。

 核抑止に頼りながらオブザーバー参加を選んだ国を見習うべきだ。北大西洋条約機構(NATO)加盟で核の脅威に直面したドイツやオランダは、批准しない立場こそ崩さなかったが、対話に前向きだった。オーストラリアは日米印と共に中国をにらむ協力枠組み「クアッド」に加わりつつ、直前の政権交代で核なき世界を求めるトップの意思で禁止条約を支持した。

 保有国と非保有国の分断が懸念される中、これらの国の動きは現実的な「橋渡し」の役目につながる可能性を秘める。

 行動計画は、核保有国に核軍縮を義務付けた核拡散防止条約(NPT)を巡り、8月に米ニューヨークである再検討会議の場で、禁止条約との「相互補完性を強調する」とした。

 岸田文雄首相は再検討会議に日本の首相として初めて出席する予定だ。プーチン氏に対し、国際社会が一枚岩となって核兵器の非人道性と使用のリスクを発信すべき時でもある。禁止条約をてこに、核廃絶につなげる行動を求めたい。

(2022年6月25日朝刊掲載)

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