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社説・コラム

社説 NPT会議 首相演説 核なき世界 行動で導け

 被爆国の首相としての決意が、どこまで世界に伝わっただろうか。

 米ニューヨークの国連本部で核拡散防止条約(NPT)再検討会議が7年ぶりに始まり、岸田文雄首相が日本の首相として初めて演説した。

 「核兵器のない世界」という理想と、「厳しい安全保障環境」という現実を結びつける道筋として、5項目の行動計画を打ち出した。前回は外相としても演説した。再検討会議には被爆地広島選出の政治家としての思い入れがあるのだろう。

 そのNPT体制がロシアのウクライナ侵攻などで試練を迎えている。中東の非核化を巡って最終文書に合意できなかった前回に続き、今回も決裂すれば空中分解しかねない。演説だけでなく、首相は合意文書の取りまとめに向け、しっかりと指導力を発揮してもらいたい。

 行動計画では、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効を目指す初の首脳級会合を日本主催で9月に開くことを提案した。国連に基金を設け、若者を日本に招いて被爆の実態に触れてもらう構想も示した。こうした取り組みは着実に進めなくてはならない。

 ただ行動計画には既視感も強い。核保有国の核戦力の透明化や核兵器の削減、指導者の被爆地訪問などは外相演説の際も触れていた。「核なき世界」を目指す決意は評価するとしても、この間の核軍縮がほとんど進んでいないことの裏返しだろう。

 その非は保有国にあるが、同じ言葉を繰り返しただけでは保有国はなかなか動かせない。被爆者からは「言葉だけなら要らない」という不満が出ていることを忘れてもらっては困る。

 NPTは米英仏中ロ5カ国に核保有を認める代わりに、核軍縮に誠実に取り組むことを義務づけている。今回の会議に向け、5カ国は1月に「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならないことを確認する」という共同声明も公表している。

 だがロシアは核兵器の使用をちらつかせながらウクライナ侵攻を続けている。中国は核弾頭の数さえ明らかにしていない。声明とは裏腹の自国本位な行動が核軍縮を停滞させ、非保有国の不信を招いてきたことを5カ国は反省すべきだ。

 その不信の結実が昨年発効した核兵器禁止条約であろう。

 ところが日本は非保有国から被爆国としての役割を期待されながら締約国会議にオブザーバー参加さえもしなかった。

 今回の演説で全く触れなかったことは失望でしかない。これでは首相が言う「保有国と非保有国の橋渡し」などできるはずもないではないか。

 首相はNPTを核なき世界実現のための原点と位置付ける。とすれば保有国に自省を促す働きかけがまずは求められよう。

 ウクライナ侵攻などを踏まえれば、今回の再検討会議が一定の合意にたどり着くハードルは相当に高い。ロシア非難は当然として、各国がNPTの枠組みを壊さないための英知を発揮できる環境づくりも必要だ。

 首相は核削減に向け、米ロ、米中に対話を促す具体的な行動を示してもらいたい。それが核なき世界への道を開き、広島で来年開かれる先進7カ国首脳会議(G7サミット)にもつながるはずだ。

(2022年8月3日朝刊掲載)

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