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連載・特集

どうみる核兵器禁止条約発効 <4> 広島平和文化センター前理事長 小溝泰義氏(72)

日本はオブザーバーに 検証具体化で貢献を

 核兵器禁止条約を制定するまでには、さまざまな国の反対や圧力があった。しかし、50カ国の批准という決して低くない発効要件は、2017年の採択から3年余りで達成した。核兵器の禁止から廃絶に向かうことが急務だという、国際世論を反映した非常に重要な動きだ。

 核兵器は悪だと国際法で宣言される意味は重い。不参加の国にも、説明責任が出てくる。こんな危ないもので安全保障を担保して良いのか。使用の人道的影響をどう思うのか。保有国や核の傘下の国を法的に拘束しなくても、大きな社会的変化を作り出すと思う。

  ≪広島平和文化センターの理事長時代、禁止条約交渉会議に出席。昨年末、条約を巡る日本政府への提案を記した論考を外務省の職員やOBでつくる霞関会に寄稿し、注目された。≫

 日本政府はすぐに批准できなくても、締約国会議にオブザーバー参加し、廃絶に向けたアイデアを発信するべきだ。対話を重視し、推進側の意見もよく聞けば発見もあるはずだ。将来の会議を広島や長崎で開くことも、核兵器の被害実態という原点をかみしめて議論するために意味がある。

 締約国会議では、核廃棄の履行を確かめるために必要な検証規定を具体化させる予定だ。核兵器の仕組みを知る保有国の参加なしには信頼できる具体的な規定は作れないが、日本政府は保有国も加わる核軍縮検証に関する専門家会合などに加わってきた。これらの活動の知見を可能な範囲で伝えるのも一案だ。

 ≪「橋渡し」を掲げる日本政府は17年から5回、保有国、非保有国双方の有識者による「賢人会議」を開催。委員として参加した。≫

 賢人会議は18年3月の提言で「核抑止は長期的かつグローバルな安全保障の基礎としては危険」と指摘し、より良い解決策を求めた。これは、保有国の米ロ仏中の有識者を含むコンセンサスを得て採択された。議論の当時、米朝関係が緊張しており「トランプ氏が本当に核を使うんじゃないか」との危機感があった。

 条約の批判者と推進者との間には、核抑止の有効性と危険性への認識の違いがある。日本政府は、賢人会議の「危険」という問題意識を、保有国の政治指導者や専門家と共有し広げることが十分できるはずだ。

 また、日本の安全保障のあり方について、なるべく核に依存しない方法を熟考し、米国と対話した上で提案していくべきだ。米国以外の各国とも対話を重ねて憲法9条のビジョンを発信し、協調的な国際環境をつくる役割も求められる。

 ≪理事長退任後は東京で暮らし、16日には条約を巡り広島の若者たちとビデオ会議で意見交換した。≫

 被爆者の証言が条約制定の機運を高める大きな役割を果たした。機運をつなげていくには、被爆者任せにせず、若い世代が伝えていくことが重要だ。私自身も、広島の思いを胸に自分にできることを続けていきたい。(水川恭輔)

 こみぞ・やすよし

 1948年生まれ。70年外務省入り。国際原子力機関(IAEA)事務局長特別補佐官、クウェート大使などを歴任。2013年4月から広島平和文化センター理事長を務め、19年7月に退任。平和首長会議(会長・松井一実広島市長)の事務総長も務めた。千葉県出身。

(2021年1月22日朝刊掲載)

どうみる核兵器禁止条約発効 <1> サーロー節子さん 

どうみる核兵器禁止条約発効 <2> オーストリア前外務省軍縮局長 トーマス・ハイノツィ氏(65)

どうみる核兵器禁止条約発効 <3> 一橋大教授 秋山信将氏(53)

どうみる核兵器禁止条約発効 <5> 広島大平和センター長 川野徳幸氏(54)

どうみる核兵器禁止条約発効 <6> 「すすめ!核兵器禁止条約プロジェクト」メンバー 会社員田中美穂さん(26)

どうみる核兵器禁止条約発効 <7> 核兵器廃絶をめざすヒロシマの会 共同代表 森滝春子さん(82)

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