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緑地帯 語り継ぐ一人として 村田くみ <5>

 広島市は、被爆者の記憶と平和への思いを受け継ぎ、自分の言葉で次世代へと伝える「被爆体験伝承者」を2012年度から養成している。原爆資料館(中区)では、伝承者による講話が通常、定時のものだけで毎日3回ある。

 「当事者の話でなければ意味がない」と思っていたが、実際に聞いてみると、1時間の講話があっという間に感じられるほど引き込まれた。それもそのはず。伝承者として登壇するまでには3年間の学習期間がある。

 中区のバー・スワロウテイルで被爆体験を聞く会を開いてきた冨恵洋次郎さんは、病気で声がかすれ、依頼の電話をかけられなくなった。冨恵さんに代わり、17年2月6日に語ってくれる被爆者を探した時、真っ先に浮かんだのが伝承者の第1期生、伊藤正雄さんだった。資料館の担当者を介して依頼すると、快く引き受けてくれた。この日は、バーでの「聞く会」が始まってちょうど11年目の節目。主治医から外出許可が出て冨恵さんも参加した。

 伊藤さんは、12歳で被爆した松原美代子さん(今年2月逝去)の体験を話した上、4歳で被爆した自分の記憶をたどっていった。証言が終わると、冨恵さんはかすれた声で「その後の人生で楽しかったことは何ですか」と尋ねた。

 「ピースボランティアとして修学旅行生たちを資料館で案内し、たくさんの感想文が寄せられる。まいた種は成長する、私たちの運動は捨てたものではないと感じられるのがうれしい」という伊藤さんの答えに、しきりにうなずいていた冨恵さんの姿が印象的だった。(週刊誌記者=東京都)

(2018年8月2日朝刊掲載)

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