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連載・特集

緑地帯 語り継ぐ一人として 村田くみ <7>

 冨恵洋次郎さんが旅立つ4日前、病室に呼ばれて「被爆体験を聞く会を続けてほしい」と頼まれたのは、広島市出身のシンガー・ソングライターHIPPYさん。バー・スワロウテイル(中区)での「聞く会」に何度も足を運び、証言のできる被爆者が少なくなったときには自分が語れるようになりたいと、2016年から被爆体験伝承者として学んでいる。

 17年7月6日、冨恵さんが荼毘(だび)に付された夜、140回目の会が開かれ、私も手伝った。バーには冨恵さんの大きな写真を貼り、黙とうをささげて始めた。HIPPYさんや仲間たちとは、「すべて今まで通り、踏襲してやろう」と確認し合った。

 私はこの日、その意味も込め、冨恵さんが病院から送ってきたメッセージをプリントして参加者に配った。著作の「はじめに」に追記された、こんな趣旨の文である。

 <僕はこの本で「核兵器廃絶」「戦争反対」の声を高々にあげて、何かの活動を始めてほしいとは思わない。被爆者の方たちが創ったこの日本で、どれだけ平和に生きているか。ささいな日常を少しでも幸せと感じることができればよいと思う。「証言者の会」に参加した帰り道に、故郷に住む親御さんに電話をかけてみて、「おかあさん元気しとん?」「今度、ちょっと帰るけん、ご飯作っといてや」。そんなたわいのない会話をすることが本当の平和活動なのではないかと感じている>

 メッセージを読みながら、「一人でも多くの被爆者の声を聞き、伝えていく」と、心の中で冨恵さんに誓っている自分がいた。(週刊誌記者=東京都)

(2018年8月4日朝刊掲載)

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