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どうみる核兵器禁止条約発効 <6> 「すすめ!核兵器禁止条約プロジェクト」メンバー 会社員田中美穂さん(26)

自分の問題と実感して 若い声で政治に問う

 私たちが働き掛けたいのは、「核兵器は必要」と強く信じる人たちより「核兵器について考えたことがない」という人たちだ。使われる可能性があるのではないか。使われたらどうなるのだろう―。一緒に考えながら、核兵器の存在はまさに今、自分自身の問題なのだと実感してもらいたい。

  ≪核兵器禁止条約の発効を翌月に控えた昨年12月、若者約20人で「すすめ!核兵器禁止条約プロジェクト」を始めた。≫

 被爆者や多くの人たちの努力が実り、これまで「理想、願望でしかない」とも言われてきた核兵器廃絶への一歩を記す条約ができた。発効の瞬間に、皆で感動を共有したいと思った。

 ところが、被爆地から一歩外に出ると、条約の存在さえあまり知られていない。それなら、著名人に参加してもらえばファンや若者が注目するかも。広島県出身の俳優東ちづるさんら著名人の賛同を得て、誰もが関心を寄せられるよう「間口」を広げた。

 メンバーは大学生やカフェ店主、母親など同世代の若者で、私は「すすめ!」のウェブサイトのデザインを手掛けた。インスタグラム(写真共有アプリ)でシェアしたり、励ましのメッセージをくれたりする同世代がいて手応えを感じている。

 ≪福岡県出身で、大学卒業後に就職で広島へ。2017年に非政府組織(NGO)核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN(アイキャン))のノーベル平和賞受賞を知ったのが転機になった。≫

 以前からこの問題に関心を寄せていた訳ではなかった。被爆地から離れた欧州の若者が、各国の政府代表と面会して説得し、条約の実現という新しい流れを築いていく姿に憧れた。

 18年11月、カナダから一時帰国していた被爆者サーロー節子さん(89)の講演を聴きに行き、「有権者が地元の議員たちに直接働き掛けるべきだ」と言われて思った。ICANの若者たちのように、自分たちも行動しなきゃ。

 ≪「すすめ!」に先立つ19年に、「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)を始めた。≫

 カクワカでは、地元選出の国会議員を中心に政治家16人にアプローチし、これまで8人と面会した。被爆国の日本が禁止条約に背を向けている。なぜ―。率直な問いを投げ掛ける。核抑止論を支持する議員とも対話した。「日程を調整します」との返事の後、音信不通の議員もいる。

 広島で被爆体験に耳を傾けていると、核兵器の非人道性をリアルに感じる。核兵器が絶対に使われないためには、廃止しかない。若者たちに「核兵器は違法な兵器になった」と分かりやすく伝え、政治家には問い掛けを続けながら、被爆国自身が禁止条約の先頭に立つべく変化していくよう、うねりをつくっていきたい。(山本祐司)

たなか・みほ

 1994年生まれ。北九州市出身。西南学院大時代に米国へ1年間留学。卒業後の2017年、就職のため広島市へ。カクワカ広島共同代表。西区在住。

(2021年1月24日朝刊掲載)

どうみる核兵器禁止条約発効 <1> サーロー節子さん 

どうみる核兵器禁止条約発効 <2> オーストリア前外務省軍縮局長 トーマス・ハイノツィ氏(65)

どうみる核兵器禁止条約発効 <3> 一橋大教授 秋山信将氏(53)

どうみる核兵器禁止条約発効 <4> 広島平和文化センター前理事長 小溝泰義氏(72)

どうみる核兵器禁止条約発効 <5> 広島大平和センター長 川野徳幸氏(54)

どうみる核兵器禁止条約発効 <7> 核兵器廃絶をめざすヒロシマの会 共同代表 森滝春子さん(82)

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