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自民新総裁 岸田氏 4日 首相指名へ 決選で河野氏破る 広島選出

 自民党は29日、総裁選の結果、岸田文雄前政調会長(64)=広島1区=を第27代総裁に選出した。岸田氏は1回目の投票で河野太郎行政改革担当相(58)を1票上回ったものの過半数に達せず、決選投票の末、大差で破った。10月4日召集の臨時国会で菅義偉首相(72)の後継となる第100代首相に指名される。岸田氏が首相に就任すれば広島県からは1991年の宮沢喜一氏以来30年ぶり4人目。広島市では戦前の加藤友三郎氏以来、被爆後は初となる。(桑原正敏)

 新総裁の任期は2024年9月末までの3年間。岸田氏は両院議員総会で「全員野球で、党一丸となり衆院選と参院選に臨もう」と決意表明した。

 初の記者会見で、党役員人事に関し「簡単ではない。できるだけ急ぎたい」と説明。衆院選の勝敗ラインを与党で過半数と位置づけた。新型コロナウイルス対策として数十兆円規模の経済対策を年末までにまとめる考えも示した。

 岸田氏は幹事長ら党四役を選任後、公明党の山口那津男代表と党首会談に臨み、連立政権の合意文書に署名する。

 首相就任後、岸田氏は直ちに組閣に着手し、皇居での首相任命式と閣僚認証式を経て、新内閣を発足させる。臨時国会では所信表明演説と各党による代表質問後、衆院解散・総選挙に踏み切るとの見方が強い。解散・総選挙の時期を巡っては「政治状況をしっかり見極め、しかるべき時期を判断したい」と述べた。

 衆院選は議員任期満了の10月21日を越え、11月前半実施が有力視される。現行憲法下で任期満了を越える衆院選は初めて。

 東京都内のホテルで投開票された総裁選には高市早苗前総務相(60)、野田聖子幹事長代行(61)を含め4人が立候補した。決選投票は5回目で、安倍晋三前首相(山口4区)が勝利した2012年の総裁選以来。国会議員1人1票の381票と、都道府県単位で党員・党友票の得票が多かった候補者へ1票を配分する都道府県連票47票の計428票で争われ、岸田氏257票、河野氏170票だった。無効が1票あった。

 国会議員票と党員・党友票を合わせた1回目の投票結果は、岸田氏256票、河野氏255票、高市氏188票、野田氏63票だった。

 岸田氏の総裁選挑戦は昨年に続き2度目。党役員任期を1期1年、連続3期までとする党改革で権力の集中と惰性を防ぐと強調。新自由主義から転換し、格差是正に取り組むとした。核兵器廃絶へリーダーシップを発揮する意欲を示した。

岸田文雄氏
 早大卒。日本長期信用銀行員、衆院議員秘書を経て93年に衆院初当選。自民党青年局長、沖縄北方担当相、党国対委員長、外相、党政調会長などを歴任した。64歳。広島1区、衆院当選9回(岸田派)。

自民新総裁 岸田氏 「聞く力」 真価問われる

東京支社編集部 下久保聖司

 「正姿勢」なる耳慣れない言葉がある。自民党の新総裁に選ばれた岸田文雄氏は自著「岸田ビジョン」に記す。その意図するところは高飛車は論外、迎合に陥りかねない極端な低姿勢も間違いだと。「自分の理念、政治哲学を持っていればおのずと正しい姿勢になる」

 総裁選の岸田氏を、この言葉に照らして追った。

 踏み込んだのは立候補表明の記者会見。再選を目指した菅義偉首相の後ろ盾で5年にわたり権勢を誇った二階俊博幹事長に退任を迫った。軋轢(あつれき)をいとわない攻め手は、「岸田は変わった」と評判を呼んだ。

 安倍晋三前首相の突然の退任表明を受けた昨秋の総裁選で、官房長官の菅氏に完敗した。主要派閥を早々と取り込まれたのは知名度の差だけではなかった。

 かねて首相候補に挙げられながら、2018年総裁選で安倍氏の向こうを張っての勝負を避けた。その頃から「決められない男」と呼ばれた。埋没の危機にあることは、耳に入る「岸田は終わった」との声からも感じていたはずだ。

 政治家3代目で、外相や党要職を歴任し、伝統派閥の宏池会(岸田派)を率いる。そんな経歴や実績を頭から振り払い、足元を見つめ直した。誰にも負けない長所が「聞く力」だと気付く。立候補表明に当たり、おもむろに取り出したのは「岸田ノート」。10年来、市井の嘆きや喜びを書き留めてきた。改めて読み返し公約に生かしたという。

 一方で後ずさりも見せた。森友学園問題の再調査に前向きと受け取られる発言をし、打ち消しに追われた。党内に影響力を持つ安倍氏に忖度(そんたく)したのでは、と感じた人は少なくない。ただ「数は力」であることも身にしみている。

 1回目の投票で党員・党友票1位の河野太郎行政改革担当相を1票差で抑え、決選投票で国会議員票を100票余り積み上げた。世代交代の「時計の針」を進めたくない派閥の論理も働いた。このねじれを解きほぐすには、「聞く力」で国民と向き合うしかない。

 くだんの「正姿勢」は陽明学者の安岡正篤氏による池田勇人元首相への助言とされる。竹原市出身の池田氏を中心に結成された宏池会は軽武装・経済重視で戦後政治を引っ張ってきた。9代目会長は創設者に倣い「令和版所得倍増」を掲げ、経済成長と適切な分配による格差是正を訴える。

 来月4日、第100代首相に選出される見通しだ。被爆地から初の宰相誕生である。「核兵器なき世界」に向け米国にも臆せず「正姿勢」で向き合うべきだ。

 「今の時代が求めているのは私だ」と高らかに訴えた。新型コロナウイルス対策は待ったなし、程なく総選挙の審判も待ち受ける。新しいリーダーは高揚感に浸っている余裕などない。

(2021年9月30日朝刊掲載)

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